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Vol. 24 動物園が動物園であるために PART1

2014.8.13

【多様な動物園】
 動物園は多様であって良い。いや多様であるべきだと思っています。画一的で統一された動物園なんて想像もできませんし、もしそのような動物園が実際にあったとしたら面白くも楽しくもないはずです。以前にも書いたことですが、似たような展示ばかりの金太郎飴的動物園が全国に蔓延すれば、動物園巡りの楽しさは失われるでしょう。表層的な真似(コピー)は、伝えたいメッセージが希薄もしくは皆無であるが故に、早晩飽きられてしまうものです。
 ようするに、それぞれの動物園がそれぞれの理念やビジョンの下で運営されているからこそ動物園が魅力的であり続けられるのです。

【動物園の核】
 一方、多様である動物園が共通に守らなければならないものもあるはずです。それが失われてしまえば動物園ではなくなる、細胞に例えれば核(コア)のようなものです。核を失った細胞に未来はありません。本質を忘れてなり振り構わず収益に奔走する動物園があるとすれば、核のない細胞と同様の末路を辿るでしょう。表皮細胞がいずれ垢として剥がれ落ちるように。
 動物園が動物園であるために大切に守るべき核、それを動物園の「本質」と呼び、具体的に何であるかを考えてゆきたいと思います。

【本質とは?】
 前回の記事で動物園の本質について述べると宣言しましたが、ふと「本質って、どういう意味だろう?」という基本的な疑問を持ちました。
いつもどおり辞書で調べてみると、けっこう難しく解説されています。和英辞典にはニュアンスの異なるさまざまな訳語が載っていますし、大百科事典ではギリシャ哲学にまで遡及した解説がなされています。本質という言葉の意味を探るだけで楽しい知的探究になりそうですが、ここでは国語辞典に記載されているシンプルな解説を参考にして話を進めたいと思います。つまり、根本的な性質や要素、そして動物園という存在の基底をなすものです。
 さて、動物園を基底から支える根本的性質=本質とはなんでしょうか。これはけっこう難しい問題で、軽率な見解を提示すると各方面から批判の矢が飛んできそうです。予めお断りしておきますが、これから展開する思考は、あくまでも個人的なものですので、その点を悪しからずご了解下さい。

参考資料
「本質(ホンシツ)」
http://kotobank.jp/word/%E6%9C%AC%E8%B3%AA

ニホンライチョウの保全が生息域内と域外(動物園)の連携で開始しています。

ニホンライチョウの保全が生息域内と域外(動物園)の連携で開始しています。

【種保全は動物園の本質?】
 動物園には教育、種保全、研究そしてレクリエーションの役割があると言われてきました。とくに最近は、希少種保全に対する役割や貢献が重要視されています(WAZA, 2005)。国内では、2014年5月22日に日本動物園水族館協会と環境省が「生物多様性保全の推進に関する基本協定書」を締結し、ツシマヤマネコやライチョウなど国内希少種の域外保全を推進してゆくことになっています。
このように動物園で種保全が占める割合は大きくなってきました。そうであるならば、種保全が動物園の本質になるのでしょうか?違うと思います。種保全は動物園におけるひとつの役割であって本質ではありません。なぜなら、種保全を行っていない動物園は動物園ではない!とは、決して断言できないからです。残念ながら、すべての動物園がすべての希少種に対して域外保全を完璧に達成でき得ているかというと、否と言わざるを得ないのが現状です。さらに種保全のための専門的施設や研究者を保有している動物園は、国内外を含めてそれほど多くありません。
動物園の規模や予算や人材によって、種保全の役割を十二分に発揮できる場合の方が少ないため、もし種保全が本質であるなら、多くの動物園の存在が危ぶまれてしまうでしょう。

【種保全の役割】
 話は少し変わりますが、種保全も含めてそろそろ動物園の4つの役割を念仏のように唱えるだけではなく、どの役割に実行上の問題があって、どの役割に困難性があるのか、そしてその困難な役割をどのようにすれば克服できるのかを、各動物園が明確に整理して開示すべきではないかと考えています。アルバート・アインシュタインが言ったように、「自分の限界に気がついてはじめて、限界を乗り越えられる(Once we accept our limits, we go beyond them)」のですから。
欠けている役割を単独で担うことが難しければ、動物園間のネットワークで補完し合えばよいのです。そのために動物園の国際的組織(日本動物園水族館協会もその一部)があるのだと思います。つまり、動物園の重要な役割を個々の動物園ではなく動物園界全体で担うということです。
 そもそも種保全は関係機関や関係者間のネットワークの下でしか達成できません。とくに希少種の再導入を目的としたネットワークは、飼育下と野外との連携で構築されます。つまり、各動物園の飼育下個体群と野生での地域個体群を結び合わせ、各個体群間で動物移動を行う生息域内外でのメタ個体群管理の発想です。このことについては、『動物園学入門』(朝倉書店)で成島悦雄さんが分かり易く解説されているのでご覧下さい。

【種保全の変質】
 ただ、このネットワークによる種保全も動物園のさまざまな思惑によって変質してしまいがちです。本来、種保全は希少種の保全のために行う事業であって、決して動物園のために実施されるべきものではありません。この点は飼育下動物のために試みられる環境エンリッチメントが、集客目的の動物展示として変質してしまう状況とよく似ています。たしかに種保全が動物園運営の目玉になる場合もあり、それなりに重要なことだとは思いますが、本来の目的を見失ってしまうと、ネットワークの下で進行する種保全事業そのものが成立しなくなってしまう可能性もあります。
 動物園の本質から種保全の話へと飛んでしまいましたが、まったく関連のない話ではありませんし、動物園にとって重要な課題には違いありませんから、次回ではもう少し説明を加えるとともに、動物園の種保全に対する個人的見解を述べたいと思います。

参考資料 成島悦雄 (2014): 動物園の保全生物学, In 動物園学入門 (村田浩一・成島悦雄・原 久美子編), p. 46-50, 朝倉書店, 東京.
http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-46034-6/

WAZA Executive Office (2005): Building a Future for Wildlife: The World Zoo and Aquarium Conservation Strategy.
http://www.waza.org/en/site/conservation/conservation-strategies

著者プロフィール

村田浩一(むらた・こういち)

1952年神戸市生まれ。
1978年から2001年まで、神戸市立王子動物園で獣医師として働く。
2001年、日本大学生物資源科学部へ転職し、2011年からは、よこはま動物園ズーラシア園長を兼務。日本野生動物医学会会長(現顧問)、IUCN/Wildlife Health Specialist Group東アジア地区委員長。専門は野生動物医学、動物園学。楽しく学べる動物園を目指して、日々、動物園内で主に楽しんでいる。趣味は、自然の中で静かに佇むこと。

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