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Vol.10 動物園ってなに? Part II

2013.6.2

言葉の意味が分からない時は、辞書で調べるのが常だと思います。最近の学生なら、電子辞書かウエブ検索を多用しているかもしれませんが。

以前、講義資料にするため図書館のリファレンスコーナに配架してある数種の辞書で『動物園』について調べたことがあります。それは、かつて『動物園』が辞書の中でひどい扱いを受けていたことを思い出したからです。

もう20年以上前のことでしょうか。元上野動物園飼育課長の小森さんが語気荒く教えてくれたのですが、新明解国語辞典第4版(三省堂)で動物園のことが次のように解説されていました。

「生態を公衆に見せ、かたわら保護を加えるためと称し、捕らえて来た多くの鳥獣・魚虫などに対し、狭い空間での生活を余儀なくし、飼い殺しにする、人間中心の施設」

国語辞書で、こんな感情的な解説ってあるの?と唖然としたのを覚えています。当然、動物園関係者は黙っていられず、出版社へ幾度か抗議したそうです。しかし、簡単にはその抗議は受け入れられず、ようやく内容変更されたのは7刷目からでした。

ちなみに、長い間この辞書の編纂者が金田一京助になっていたので、著名なアイヌ語の研究者にしては妙な思考回路だなあ、と疑問を感じていました。でも、2か月ほど前にテレビ放映された番組で、実際の編集に携わったのは山田忠雄という国語学者であったことを知りました。この方は、『動物園』のみならず他の言葉に対しても、かなりユニークな解説を加えています。たとえば恋愛は、「特定の異性に特別の愛情をいだき、高揚した気分で、二人だけで一緒にいたい、精神的な一体感を分かち合いたい、出来るなら肉体的な一体感も得たいと願いながら、常にはかなえられないで、やるせない思いに駆られたり、まれにかなえられて歓喜したりする状態に身を置くこと(第5版)」と、かなり魅惑的(?)な文面です。このようなユニークさのため、新明解国語辞典には熱心なファンがいたりします。赤瀬川原平などは、『新解さんの謎』(文春文庫)という本まで書きました。

 

 

『動物園』の解説の話に戻ると、小森さんの話を聞き唖然としながらも、小学校で学んだ高村光太郎の詩を思い浮かべていました。それは、「何が面白くて駝鳥を飼ふのだ。動物園の四坪半のぬかるみの中では、脚が大股過ぎるぢやないか」で始まる『ぼろぼろな駝鳥』です。

この詩も動物園に対する批判的な内容を含んでいますが、個人的には共感するところが少なからずあって、今も好きな詩のひとつです。同じように、山田の『動物園』の解説に対しても、「ひどいなあ」とは思いながらも100%否定することはできませんでした。その当時は、それなりの負い目を感じていたからです。

なぜ山田忠雄が譲歩したのか、その理由が知りたいところですが、すでに他界されており質問することはできません。しかし私は、この解説が動物園へのアンチテーゼではなかったのだろうか、と想像しています。山田忠雄が動物園側の抗議を容易に受け付けなかったのは、「それほど言うなら、狭い空間で飼い殺しなどしてない、広く快適な空間で動物を保護しているという証拠を見せてみろ!」と思っていたからではないでしょうか。このあたりは、1980年から90年代に国際的な広がりを見せたズーチェック運動と重なる部分がありますが、それについては別の機会に述べたいと思います。

いずれにしても、動物園に対して人々が持っている考えは多様であり、動物園関係者が当たり前と思っている四つの役割(レクリエーション・教育・保全・研究)が、それほど多くの人に理解されていないという事実を理解しておくべきです。

著者プロフィール

村田浩一(むらた・こういち)

1952年神戸市生まれ。
1978年から2001年まで、神戸市立王子動物園で獣医師として働く。
2001年、日本大学生物資源科学部へ転職し、2011年からは、よこはま動物園ズーラシア園長を兼務。日本野生動物医学会会長(現顧問)、IUCN/Wildlife Health Specialist Group東アジア地区委員長。専門は野生動物医学、動物園学。楽しく学べる動物園を目指して、日々、動物園内で主に楽しんでいる。趣味は、自然の中で静かに佇むこと。

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