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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol. 28 動物園が動物園であるために 終章

2015.1.26

【動物園学を基盤とした動物園】

 これまで動物園の現場を知らない管理職が異動してきて、動物園の現状に対し批判の言葉を浴びせるのを幾度も聞いてきました。そのような人たちが異口同音に「動物園の飼育技術など大したことはない」、「動物園にプロなどいない」、と語るのを耳にするたび、悔しさと悲しみを感じていました。実際、そのような批判に十分対抗できる動物園の現状ではなかったがため、よけいに悔しさと悲しみが増したのも事実です。
 以前にも述べましたが、私は、動物園学(Zoo Science)の構築を目指しています。そして、動物園学に関わる翻訳書や教科書も動物園の仲間たちの協力を得て出版してきました。その中の一冊である『動物園学入門』(朝倉書店、2014年)の序文に、「動物園を取り巻く様々な学問を総合した動物園学を興し(中略)、動物園における学術的基盤の構築に役立てる」と記し、動物園の本質が飼育展示を支えるサイエンスにあることを宣言しました。サイエンスを基盤とした動物園を構築できれば、いわれなき批判に堂々と対抗できると思ったからです。
 もちろん、動物園が持つレクリエーションや慰安の役割を軽視してはいません。大切なのは、それらを根底から支えるものだと考えています。根底とは、来園者が容易に見ることのできない、そして触れることのできない部分です。氷山に例えれば、レクリエーションや慰安として海面に現われている部分の下にある、つまり海中に沈んでいる大半の部分です。

動物園の氷山モデル(『動物園学入門』(朝倉書店)より転載) 動物園を氷山に例えれば、来園者が直接的に見て感じることができるのは10分の1であり、残りの10分の9は飼育技術そして環境教育や生物多様性保全などに関する動物園の基盤と呼べるものです。それらは、来園者が容易に知ることのできない部分でもあります。でも、基盤は来園者との相互作用の中で強化されてゆくでしょう。表面を覆うように外部環境の変動から守っているのは、健全な経営であり、浮力となるのは動物園利用者やサポーターそして企業のCSR活動などです。動物園は地域振興にも貢献しています。

動物園の氷山モデル(『動物園学入門』(朝倉書店)より転載)
動物園を氷山に例えれば、来園者が直接的に見て感じることができるのは10分の1であり、残りの10分の9は飼育技術そして環境教育や生物多様性保全などに関する動物園の基盤と呼べるものです。それらは、来園者が容易に知ることのできない部分でもあります。でも、基盤は来園者との相互作用の中で強化されてゆくでしょう。表面を覆うように外部環境の変動から守っているのは、健全な経営であり、浮力となるのは動物園利用者やサポーターそして企業のCSR活動などです。動物園は地域振興にも貢献しています。

水面下に蓄積された知識や情報や技術が豊富であるほど、海面に現われる部分は大きくなります。言い換えれば、動物園の基盤が幅広く強固であれば、多様な来園者の希望に応えることができるという意味です。

 

【動物園は楽しい場所】

 これまで少し難しく動物園の本質について述べてきました。でも、動物園はそれほど難しい場所ではありません。単純に楽しめる場所です。私自身、毎日その楽しさを味わっています。でも、単純から生み出される単純は軽薄なものです。複雑から生み出される単純だからこそ人々の感情に響き伝わり、心の奥深くにまで浸みこんで長く残るのではないでしょうか。単純な楽しみ(アミューズメント)なら遊園地やテーマパークに勝てません。
 複雑さに関する仕事は、動物園関係者が担います。それを単純にアレンジするのも関係者の仕事です。難しい話は必要としている限られた人たちや専門家に提供し、来園者の多くにはそこから生み出されるエッセンスを提供したらよいと思っています。そのエッセンスは、動物に対面した時の感動を知的好奇心に代え、さらに不思議への探究心を起こし助けるものです。
 動物園には、生き生きとした動物たちがいます。ありきたりの言い方ですが、いのちと触れ合える貴重な都会のオアシスなのです。これもよく使われる言葉ですが、動物園は自然への窓口です。都会で身近に生きものを見て感動し、知らない間に学べる場など他にはありません。

【おわり】

さて、再び早朝の動物園です。
動物たちが挨拶してくれます。

動物園では、動物たちが来園者と交流する風景をよく見かけます。

動物園では、動物たちが来園者と交流する風景をよく見かけます。

動物たちの姿はいつ見ても美しく、動物たちとの出会いはいつも楽しいものです。
もっと動物園を歩いてみませんか?

追伸:
 長い間、拙い文章を読んでいただき、ありがとうございました。

参考資料
村田浩一・成島悦雄・原 久美子編. 2014. 動物園学入門, 朝倉書店, 東京.
http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-46034-6/

著者プロフィール

村田浩一(むらた・こういち)

1952年神戸市生まれ。
1978年から2001年まで、神戸市立王子動物園で獣医師として働く。
2001年、日本大学生物資源科学部へ転職し、2011年からは、よこはま動物園ズーラシア園長を兼務。日本野生動物医学会会長(現顧問)、IUCN/Wildlife Health Specialist Group東アジア地区委員長。専門は野生動物医学、動物園学。楽しく学べる動物園を目指して、日々、動物園内で主に楽しんでいる。趣味は、自然の中で静かに佇むこと。

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