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Vol.22 動物園ってなに? Part XIV ~ 法律の中の動物園 8 ~

2014.6.15

【動物園法制定の意義】
 動物園法の制定もしくは本法の必要性について議論することには、前回述べたこと以外にも意義があると思っています。
 これまで解説してきたように、たしかに都市公園法や都市公園施行令で動物園の設置基準が記されてはいます。しかし、自治体の中でこの法律を所轄する多くは建設関連部局であるため、きわめて稀な例を除いて動物園や動物学の専門家が管理運営の中枢に配属されることはありません。新規配属された職員が担当する動物園の現状が、欧米の先進的動物園と比べると、10年以上の格差がある場合も少なくありません。
 いかに優れた職員であったとしても、世界の動物園のトレンドを理解し追い付こうと決意した頃には、他部局へ異動するか退職の時を迎えるため、いつまで経っても世界的潮流に乗り切れない状態が続くのです。そして結果的に、世界の動物園と疎遠となるか意志疎通が図れず、国際間での動物交換にも問題が生じるようになってしまいます。
 世界的な動物園の潮流に精通した人材が動物園を管理運営していない状況は、極端に言えば重機を扱っている土建業者やレストランや食堂などの食品衛生管理者が、片手間で希少種の飼育管理を行っているようなものです。別に土建業者や衛生管理者を悪く言ってはいないので誤解しないで下さいね。専門分野が異なる者が、他分野の仕事を請け負っていることを議論にしているのです。動物飼育や野生動物学の専門家が決して公園やビルの管理を行えないのと同じです。市立病院の外科部長に獣医師がなれないのと同様です。「Zoo Biology」を読んでいる人が「日刊工業新聞」などに目を通さないのと同じです(ひょっとしたら、国内に一人ぐらいは居るかもしれませんが…)。要するに「餅は餅屋(Leave it to a specialist.)」になっていない状態です。

【世界的動物園の潮流との格差】
 以前にも書きましたが、たしかに建設部局に動物園が所属するメリットは大です。教育部局とはレベルの違う予算枠が与えられているからです。つまり、公園整備の予算で動物園内の施設を充実化できるのです。このメリットは、動物園の運営や維持を考えると軽視できません。しかし、これまでも述べてきたことですが、たとえ施設(ハード)が充実したとしても、それを支える飼育技術(ソフト)の重要性を理解し指導する能力や知識がなければ、動物園の本質を探究できない問題も決して軽視できないのです。
 そのような問題に気付いた先人は過去にも少なからずいて、何とか動物園をあるべき姿に戻そうと努力した例は、上野動物園や京都市動物園や大阪市天王寺動物園などの人事に認められます。詳細は論点から外れるためここでは述べませんが、『動物園の歴史-日本編-』(佐々木時雄)や『動物園の文化史 ひとと動物園の5000年』(溝井裕一)に書かれていますので、機会があれば是非ご一読下さい。

 

 

【博物館法の歴史的背景】
 動物園が博物館相当施設として位置づけられていることを前に記しましたが、戦後、博物館法が制定される際に、動物園を博物館施設として法文中に明記しようとした動きがあったようです。その活動の中心人物は、博物館の父と呼ばれた棚橋源太郎と上野動物園長の古賀忠道でした。彼等に呼応して全国の動物園も動いたように思われるかもしれませんが、実は多くの公立動物園が博物館法の中に取り込まれることに反対したのです。おそらく、教育部局よりも建設部局が管轄する財政的メリットを優先させたのだと推察されます。博物館制定時の動物園に関係する諸事情や歴史的背景については、瀧端真理子さんの優れた論文をお読みいただければご理解いただけると思います。
 このようにその時代状況の刹那的なメリットのみを追求して、動物園の本質が何であるかを問わずに来たことが、「消えていいのか、日本の動物園」(日本動物園水族館協会)と焦りを込めて叫ばざるを得なくなった状況を生んだ根幹であるのは間違いないでしょう。

【動物園の本質論】
 さて、そろそろ本連載の核心に迫る時(終章を迎えるべき時)が来たようです。
 「動物園の本質とは?」
 とても回答が難しい命題ですが、動物園と長く関わってきた者つまり動物園人として、その意味を深く考え、他者にも伝えるべき義務があると考えています。
 次回からは、その命題に対する極私的思考を展開してゆきます。

『日本の動物園・水族館は博物館ではないのか? : 博物館法制定時までの議論を中心に』
瀧端真理子,追手門学院大学心理学部紀要 8, 33-51, 2014.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009684801

『動物園の文化史 ひとと動物園の5000年』
溝井裕一,勉誠出版,2014.
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=100322

『動物園の歴史 日本における動物園の成立』
佐々木時雄,西田書店,1975.
『続動物園の歴史(世界編)』
佐々木時雄著・佐々木拓二編,西田書店,1977.
この2冊は既に絶版となっており入手困難ですが、まれに古書店で見かけることはあります。当時の定価よりも高いかもしれませんが、購入を決断する価値は十分にあると思います。

著者プロフィール

村田浩一(むらた・こういち)

1952年神戸市生まれ。
1978年から2001年まで、神戸市立王子動物園で獣医師として働く。
2001年、日本大学生物資源科学部へ転職し、2011年からは、よこはま動物園ズーラシア園長を兼務。日本野生動物医学会会長(現顧問)、IUCN/Wildlife Health Specialist Group東アジア地区委員長。専門は野生動物医学、動物園学。楽しく学べる動物園を目指して、日々、動物園内で主に楽しんでいる。趣味は、自然の中で静かに佇むこと。

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