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Vol.23 動物園ってなに? Part XV ~『動物園学入門』の出版~

2014.7.11

 これから動物園の本質を語る上でも大いに関係するため、動物園学に関する図書を紹介したいと思います。近々に朝倉書店から出版される『動物園学入門』です。国内の動物園関係者が協力して執筆しました。ようやくここまでたどり着けたか、と感慨深いものがあります。動物園の存在理由が問われている現在、日本における動物園学(Zoo Science)の設立宣言書とも言えるこの本の出版が、今後、国内の動物園に与える好影響を期待したいところです。

 欧米先進国の動物園では、飼育下野生動物の保全生物学(Conservation Biology)や保全教育学(Conservation Education)が日本より遥かに進んでいます。それらに関連する専門書も毎年出版されていて、これまでその幾冊かを有志とも呼べる動物園関係者と共に翻訳し出版してきました。” Zoo Animals: Behaviour, Management, and Welfare”(邦題;動物園学)、” Wild Mammals in Captivity: Principles and Techniques for Zoo Management”(邦題:動物園動物管理学)、” Zoo and Wild Animal Medicine,5th ed.”(邦題:野生動物の医学)などです。国内の動物園のイノベーションと発展に少しでも役立てたいという思いで翻訳や編集に取り組みました。でも、そのような熱い思いで取り組んできた翻訳作業の途中でさえ、心の中にはある種の煮え切らない冷めた感覚がありました。その原因のひとつは、欧米先進国が進めている動物園事業の標準化や規準化に対する違和感でした。

 たしかに世界の動物園が共に発展してゆく上で、共通の目標やそのための国際標準つまりグローバル・スタンダードは必要です。とくに飼育技術の標準化は、希少種の繁殖などで大いに役立つでしょう。しかし、動物園動物の保護や福祉に関するグローバル・スタンダードが、日本の動物園に画一的に応用可能かといえば、疑問を持たざるを得ません。

 国際的な標準化を全面的に否定はしませんが、文化や政治や社会情勢が異なる国へ画一的にそれを導入するのには問題があると思っています。動物の保護や福祉に関しては、国それぞれの思想や宗教観や歴史的背景があり、国際的な取り決めに対して、即座に応えられない場合も少なくありませんし、その対応の仕方も多様であるはずです。

 

 

 では、国際的な標準化に協調しながらも、その国の動物観に配慮した動物園づくりを目指すには、どのようにすればよいのでしょうか?その課題に対する回答のひとつが本書です。つまり、その国の動物園関係者によって執筆された、その国の動物園の役割や道筋を示すための教科書を作りたかったのです。

 動物園の役割には、レクリエーション、教育、保護、研究の4つがあると言われてきました。これらの役割の一部は既に研究対象になっており、そのための学問的背景も存在します。そもそも近代動物園が誕生して以降、しばらくは動物園学が重要な設立基盤となっていました。1968年に、アメリカ動物園水族館協会から出版された”ZOOLOGICAL PARK FUNDAMENTALS” by Lawrence Curtisには、動物園設立のベストアプローチとして、まず動物学協会を立ち上げることを勧めています。現代においても、希少種の生息域外保全に関わる繁殖研究等では、既存の畜産学や獣医学が学問的背景となっています。動物園の環境教育では、関連学会も存在しています。学問とは縁遠く感じられるレクリエーションにおいてさえ、地域振興やツーリズムなどの観点から研究対象となっていて、海外では動物園のエコツーリズムに関する専門書も出版されているほどです。このように動物園の基盤として学問が存在し、現在も成立し得る背景は十分にあるのです。それにも拘らず、国内で動物園専門の学問領域を設けようとした試みは動物園の設立当初から認められず、4つの役割を有機的に結びつけようとした学者や研究者の動きもありませんでした。

 『動物園学入門』の出版意図は、動物園を取り巻く多様な学問を総合した動物園学を興し、アカデミアの中に学問領域として普及させ、動物園における学術的基盤の構築に役立てることにあります。そして、この国に動物園文化を定着させる布石とすることを目的としています。

 しかしながら、「布石」は将来のために配置するひとつの石に過ぎません。将来的な動物園学の発展を確固とするためには、より多くの礎石を敷き詰める必要があります。本書がその地道な第一歩に過ぎないことも十分に認識しています。将来的に、布石としての『動物園学入門』が幾度も改訂されるか、次世代の動物園人によってまったく新たな教科書が出版されることで、動物園学が動物園にとって当たり前の存在になるような文化が日本に根付くことを心から願っています。

※以上の文章は、『動物園学入門』の序文に一部加筆したものです。動物園の本質を理解するためにも、購読していただければ幸いです。本文中で紹介した他の翻訳書情報のURL情報も併せて記しておきますので参考にして下さい。

『動物園学入門』(朝倉書店)、近刊
http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-46034-6/

『動物園動物管理学』(文永堂出版)、2014年
https://buneido-shuppan.com/index.php?gloc_id=01003&bkcd=2014030001

『動物園学』(文永堂出版)、2011年
https://buneido-shuppan.com/?gloc_id=01003&bkcd=2011080001

『野生動物の医学』(文永堂出版)、2007年
https://buneido-shuppan.com/index.php?gloc_id=01003&bkcd=2007090003

著者プロフィール

村田浩一(むらた・こういち)

1952年神戸市生まれ。
1978年から2001年まで、神戸市立王子動物園で獣医師として働く。
2001年、日本大学生物資源科学部へ転職し、2011年からは、よこはま動物園ズーラシア園長を兼務。日本野生動物医学会会長(現顧問)、IUCN/Wildlife Health Specialist Group東アジア地区委員長。専門は野生動物医学、動物園学。楽しく学べる動物園を目指して、日々、動物園内で主に楽しんでいる。趣味は、自然の中で静かに佇むこと。

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