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Vol.3 離乳作戦

2016.1.4

みなさんこんにちは!
ますます寒くなりサル舎内にも暖房が入る季節になりました。
ハヌマンラングールのこどもたち、とりわけ今年生まれのサトは体温調節がまだ苦手なので、暖房の入った室内展示の木箱の中でぬくぬく過ごしています。

みなさんも風邪などひかないように暖かくして動物園にいらしてくださいね!

みなさんも風邪などひかないように暖かくして動物園にいらしてくださいね!

さて 今回は、お姉ちゃん・タラが大きくなるまでのお話です。

通常、サルの赤ちゃんは生まれてすぐにお母さんのおなかにしがみつき、お母さんが走ったり跳んだりしても落ちてしまわないようにぎゅっと抱きついて過ごします。
お母さんにべったりの赤ちゃんも、徐々にまわりのものに興味を示すようになり、自分から手を伸ばして色々なものに触れたり口に入れたりするようになってきます。
そんなふうにして、ゆっくりゆっくり離乳にむかっていきます。

始めのうち赤ちゃんが口にするのは、お母さんの食べこぼしだったり、一度咀嚼されたものだったりします。
ヒトのもののような特別な「離乳食」ではありませんが、少し特殊な食性をもつリーフイーターにとって、お母さんの唾液から体の中の微生物などを摂取するという意味でも、母乳と同じく大切なもの。

離乳に向かう過程は 人工哺育の赤ちゃんでも同じで、たいてい生後2か月から3か月あたりでミルク以外の食べものを口にするようになります。

しかしタラは、生後5か月半までほとんどまったく何も食べず、ミルクばかりの堕落した(?)赤ちゃんライフを送りました。

ミルクを飲みながら眠ってしまう堕落っぷり。

ミルクを飲みながら眠ってしまう堕落っぷり。

人工哺育のタラの場合、お母さんの食べこぼし…といっても、母親がわりの飼育員の食べこぼしを与えるわけにはいきません(食べこぼさないですしね!!!)。
まずは柔らかく煮たニンジンやサツマイモ、葉物野菜、野草や木の葉などをタラの手の届くところに置いておき、自分から食べるのを待ちます。
…食べない。一向に食べない…

次に、私が食べるところを見せます。
お母さんが食べている=これは食べものなんだ!と気づかせる作戦。
…食べない。

当時の記録を見返してみると、タンポポ、ヨモギ、クローバー、ササ類、イヌビワ、クヌギ、カシ類などなど、タラの離乳作戦に付き合ううちに、わたしは合計35種の野草や木の葉を食べていたことがわかりました。

当園では毎日すべての霊長類に新鮮な野草を与えています。

当園では毎日すべての霊長類に新鮮な野草を与えています。

でも…食べない。
ドクダミ、おいしかったのになあ…

少しミルクの量を減らしてお腹をすかせれば食べるんじゃないか?
…食べない。

ミルクに野草や木の葉の絞り汁を混ぜ、少しずつ味にならす作戦。
これはいける!いける気がする!!
と調子にのったのがいけなかったのか、ミルクは飲むものの…
…食べない。

とにかく何か食べてくれるものを見つけないと!!!
ということで、色んなものを見せては食べ、見せては食べ…
手に入る野菜、果物、野草、木の葉はなんでも試し、ごはん、パン、卵、チーズ…
…食べない。

そしてやっと見つけた、タラが食べるものは…

チャイロコメノゴミムシダマシの幼虫、通称ミルワーム。 当園では、保護されてきた野鳥の飼育に使っています。

チャイロコメノゴミムシダマシの幼虫、通称ミルワーム。
当園では、保護されてきた野鳥の飼育に使っています。

ミルワームを引きちぎって食べる姿を見たときにはぎょっとしましたが、木の葉を主食とするハヌマンラングールも量は少ないながら昆虫も食べるということになっています。
「ということになっています」というのも、わたしはそれまでハヌマンラングールが昆虫を食べるところを見たことがありませんでした。

ときわ動物園の個体はなぜだか完全植物食!

ときわ動物園の個体はなぜだか完全植物食!

当園のおとなたちは、虫を見せてもまったく食べないどころか、怖がるように逃げるばかり。
シシオザルやボンネットモンキー、シロテテナガザルも大好きなコオロギやバッタにも興味を示しません。

タラもたくさん食べるわけではなかったので、単に動くものが面白かったのかな?
タンパク質や脂肪分が足りていない??
色々と考えましたが、他の虫にはまったく興味を示さず、ミルワームに夢中。
結局わたしにはわからずじまいでした…

そんなミステリアスな時期も一週間ほどで終わり、生後5か月半を過ぎたころ、急にレタスを食べたんです。
それはそれはあっけなく。

むしゃあ! (※この写真ははじめて食べた時のものではありません)

むしゃあ!
(※この写真ははじめて食べた時のものではありません)

レタスを食べ始めると、小松菜もキャベツも、ニンジンも、サツマイモも、野草も、木の葉も、まるでこの5か月が嘘のように次々と食べるようになってくれました。

実はこの頃下痢もしていて、整腸剤も効果がなく、とても悩んでいました。
しかし、色々食べ始めたのと同時に下痢もおさまり、何の問題もない健康優良児に。
その後はミルクの要求量が減っていき、生後約1年で無事に完全離乳しました。

7

一件落着なのですが、謎は深まるばかり…

次回は、謎多き姉とはうってかわって優等生赤ちゃんだったサトのお話。
タラの時に迷走したわたしも、2度目は成長したんですよ!

著者プロフィール

川出比香里(かわで・ひかり)

1991年生まれ 埼玉県出身
専門学校を卒業後、埼玉県こども動物自然公園でのアルバイトを経て、2012年にときわ動物園就職。偶蹄類が好きでサルは大の苦手だったが、担当になるとあっという間に夢中になり、今では3児(すべてサル)の母。

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