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Vol.35 動物園の研究会

2019.3.15

みなさんこんにちは!
あたたかな日差しに春の到来を感じられるようになりました。
元気いっぱい、あるいはまったり過ごす動物たちに会いに来てくださいね!

さて、今回は動物園の研究会のお話です。
これまでにも、私たち動物園の飼育員が飼育管理だけでなく調査や研究もおこなっていることをお話してきました。

 

日本には、日本動物園水族館協会という組織があり、全国91の動物園と59の動物園が加盟しています。動物の飼育、繁殖、教育普及活動、調査研究などをおこなっていくなかで、飼育施設同士の協力関係はとても不可欠で、ときわ動物園もここに加盟しています。
この組織をもとにいろいろな活動がおこなわれていますが、そのひとつに研究会があります。
全国の動物園の職員が集まって日々の仕事の中で動物たちから学んだいろいろなことを発表し、情報交換をする全国大会が年に一回、そして地域ごとに集まる小規模なものも。
山口県にある当園は、中国四国ブロックで、今年度の研究会は、2月末に広島県の広島市安佐動物公園でおこなわれました。当園からは私が参加し、ハヌマンラングールに関する発表をしてきました。

 

発表内容は、こちら。

ちょっぴり難しげなタイトルがついていますが、かんたんに言うと…

動物に与えるエサをまるごと与えるか、小さく切るか、ということを考える時、私たち飼育員は色々なことを考えます。

 

小さく切ると、切断面が増えてビタミンや水分が失われてしまう、空気や土などに触れて汚れやすくなってしまうという欠点があり、栄養と衛生の面では“まるごと”に軍配が上がります。
しかし、小さく切ってばらまけば数の多い群れの動物もみんなが食べられるようになることが期待できる、まるごと与えれば動物自身がかじりつく必要が生まれる……というように、行動の面ではどちらにも、良いところがありそうな意見や研究結果があり、そもそも研究の数が少ないので、「絶対にこっちがいい!」とは言えない状況です。

 

人工哺育で育った2頭を含む当園のハヌマンラングールでは、なぜだかエサを持ったままぴょんぴょんと木の上などに運んで食べる様子がよく観察されていました。
エサを持って運ぶのはなぜなのか…というのははっきりしないのですが(ケンカをするほどではないけれど、そこまで仲良くないからできれば離れて食べたいな~ということかも、と私たちは考えていますが、それについては今の段階ではなんとも言えません)、これをエンリッチメントに利用できるかも?と思いました。
ハヌマンラングールのエサは、これまでかれらの“持ちやすさ”を重視して大きめに切っていました。しかし、もっと小さく切ったら一度に運べる量が少なくなって、エサがある場所とエサを食べる場所を何度も往復することになり、食べるために使う時間やエネルギーが増えてひまな時間が減るのでは、と考え、もともとの大きめサイズで給餌した場合と、小さなサイズで給餌した場合の行動の変化を調べてみました。
結果は、4頭すべてでエサを運ぶ行動がどーんと増え、エサを探す、持つ、運ぶ、食べるという、食べるための行動に使う時間が少しだけですが増えました。

 

しかし、はじめにお話したようにマイナス面もあり、何を優先させるかは要検討事項です。

また、エサを運ぶ行動をみんながおこなうこと、エサを貯めて移動できる頬袋がないサルであることなど、いくつかの条件が当てはまらなければこうした結果にはならなかったでしょう。さらに、当園のこのグループでも個体同士の関係性が変わると行動が変わる可能性があります。動物の「食べる」を考える時には、いろいろな要素を考慮する必要がありそうです。

エンリッチメントというと、いろいろな工夫を施したフィーダー(給餌器)や、今までにない行動レパートリーを引き出すためのアイテムを使うものが多く、とってもわくわくします。でも、今回のようにただエサを小さく切るだけ、とか、他にもエサを置き場所を変えてみる、ということもエンリッチメントになる場合があるかもしれません。
大切なのは、私たち飼育員が何をしたか、ではなく、動物がどう変わったか、ということ。
動物たちをまっすぐに見て、いろいろな方向からかれらのくらしを支えていかなれければなりません。

 

発表したことで、参加者の方々から様々なご意見をいただくことができ、課題もたくさん見つかりました。

 

また、難しい症例に対する治療や海外の動物園での研修、ハズバンダリートレーニング、より多くのお客様に動物を観察してもらうためのサイン(看板)の工夫など、多岐にわたる他の参加者の方々のご発表もとても勉強になりました。
会場となった安佐動物公園の施設もじっくり見学させていただき、収穫いっぱいの研究会でした!
学んだことは園に持ち帰って他の職員と共有し、より良いときわ動物園にしていきます。

 

…と、今回のお話はここまでですが、最後にご報告を。
この度、これまでこのコラムでお話させていただいてきたハヌマンラングール(と、他2種のサル)の飼育担当を離れることになりました。
2頭のこどもたちの人工哺育の他、本当にたくさんのことを経験・勉強させてもらいました。
ちょっぴりさみしい気持ちもありますが、ハヌマンラングールたちとのすべてに感謝し、教えてもらったことを今後のお仕事にしっかり反映させてまいります。

 

ちなみに、来月からは、しましましっぽが特徴のサルたちといっしょにお仕事です。

そして、毎回ハヌマンラングールの話ばかりしていましたが、“Mother of Three Monkeys”というタイトルをいただいているんでした…だったらもっといろいろなサルたちのお話がしたい!
そんなわけで、次回からは趣向を変えて、当園自慢の霊長類を毎月1種ずつ、私目線でご紹介していこうと思います。

 

次回は、当園のシンボルといっても過言ではない、シロテテナガザルのお話です。

著者プロフィール

川出比香里(かわで・ひかり)

1991年生まれ 埼玉県出身
専門学校を卒業後、埼玉県こども動物自然公園でのアルバイトを経て、2012年にときわ動物園就職。偶蹄類が好きでサルは大の苦手だったが、担当になるとあっという間に夢中になり、今では3児(すべてサル)の母。

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