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Vol.30 ハヌマンラングールのための環境エンリッチメント その3

2018.10.18

みなさんこんにちは!
猛暑が終わったと思ったら、今度は次々やってくる台風…ご無事でお過ごしでしょうか?
幸い、ときわ動物園は台風の直撃はまぬがれ、大きな被害はありませんでしたが、例年になく何度も臨時休園をさせていただき、ご迷惑をおかけいたしました。
遠足シーズンでもある10月、どうか秋晴れいっぱいでたくさんのお客様の笑顔にお会いできますように!

さて、これで3回目、まだまだ続く環境エンリッチメントのお話です。

 

前回は、フィーダーを設置したことでハヌマンラングールのこどもたちの採食時間が増えた!というお話でした。

狙い通りの結果になってうれしい反面、記録をとりながら観察をしたことで、もっとこうしたいな~という課題もたくさん出てきました。観察をしていなかったら、「フィーダーを使っている」という様子を確認して満足してしまったかもしれません。
そもそも、フィーダーを使って与えたのは、エサのうちでも好物で量の少ないサツマイモだけだったこともあり、採食に関わる時間(エサを持って口に運んだりかみ砕いたりする行動だけでなく、フィーダーを揺らしたりする行動も含めたもの)が伸びたといっても増えたのは10分程度。サツマイモ以外のエサに費やす時間も増やすためには…あんなフィーダーがいいかな、こんなふうにしたらどうかな、でも手間がかかりそうだな、毎日洗えるかな…などなど、いろいろ考えているうちに(というのは言い訳ですね…!)、なんと3ヶ月経過…
ご、ごめんよ…忙しかったんだ…(というのは言い訳ですね…!!!)

 

そうこうしているうちに、新たな問題が浮上。
あれ…?最近サツマイモ残ってるよね…

毎朝サルたちが展示場に移動した後に、夜を過ごした室内を清掃、その時にフィーダーも洗うのですが、中に入れたサツマイモの残量が日に日に増えていたのです。 それはつまり、サツマイモを食べていない、フィーダーを使っていないということ…

 

10日間の観察を終えてからは、フィーダーに入れる量や設置位置、設置するフィーダーの数をランダムにして、残ったエサの計量もしていなかったのですが、それでもはっきりとわかるほどに残るサツマイモ…

これはもう無視できない!(はじめから無視してちゃだめなんですけれど…!)
ということで、フィーダー設置から3ヶ月後、再び行動観察をしてみることにしました。

 

ざっくりした結果がこちら。

統計処理などおこなっていない、それぞれの期間に10日間観察したそのままのデータです。
60分の観察で1分ごとに行動を記録していったので、それぞれ60個ずつ「その時何をしていたか」が出てきます。
フィーダー設置によって増加した、「食べる」と「フィーダーを操作する」という、(この観察では、エサを手にもっている状態を「食べる」(前回のコラムでは「採食」と表していました)にカテゴリー分けしています)採食に関わる行動が、3か月後にはばらついているものの減少しているようです。特に、赤で示した「フィーダーを操作する」は明らかに少なくなっています。

ちなみに、3か月後の観察でこれまでと違ってデータにばらつきがみられるのは、8月の延長開園のためにいつもと私の仕事の流れが変わり、エサを与える時間がまちまちだったことが影響したのではないかなと考えています。

 

また、どのフィーダーをよく利用するのかを知るためにフィーダーに触れる行動も記録したのですが(事前に決めたサンプリング間隔のあいだに、ある行動が起これば「1」、起こらなければ「0」と記録していく「1-0サンプリング」という方法を使いました。ここでは、サンプリング間隔は1分、標的とした行動は「フィーダーに触れる」ことで、ABCの3つのフィーダーそれぞれについて記録しました)、その結果がこちら。

わかっていたけど…わかっていたけど…
ビデオを見ながらどんどん沈鬱なきもちになりました。
設置後すぐの観察ではBのフィーダーへの接触が多く、ちょうど座りのいいとまり木があるからかな、どこに取り付けるかも大切だなあ、など思っていたのですが、3ヶ月後はごらんのとおり、どのフィーダーにもほぼ触れていません。
そして水色の折れ線グラフは、翌朝までフィーダーの中に残っていたサツマイモの量です(各フィーダーに50gずつ、合計150gを与えていました)。
触ってないんだもの…そりゃそうですよねえ…

   

すっかり打ちのめされましたが、気を取り直してまいりましょう!
設置から3ヶ月で(おそらく実際にはもっと以前から)フィーダーを使わなくなってしまった原因はなんなのでしょう?

 

フィーダー操作が簡単すぎて、飽きてしまったから?
フィーダー操作が難しすぎて、諦めてしまったから?

 

もしかしてもしかすると、フィーダーからGが出てきたとか、触っていないのにひとりでに動いたとか、触りたくなくなるようなコワイコトが起きたから?

 

色々な原因が考えられますが、まずはそれを突き止めないことには、次の手段がとれません。
Gやオバケによる影響だと考えるのは非常に難しいので、どうにも手詰まりだったときの逃げ道としてとっておくとしましょう。

 

フィーダーを使っていた時、使わなくなってからのビデオを見直したり、他のサルが同じ構造のフィーダーを操作する様子と見比べてみたり…
すると、どうやらフィーダーに頻繁に触れていた時も、中のエサを食べるまでにかなり時間がかかっている様子が見えてきました。
同じ形のフィーダーでも床に置いておくタイプであれば、特別な操作をしなくても転がしているうちにエサを食べることができます。しかし、設置したものはひもで吊るしているので、ただ闇雲にフィーダーを揺らすだけではエサを手に入れることはできません。

フィーダーの下部を持ち上げてちょうどよく穴の位置までエサを転がす、そして指でつまみだす、そんな操作が必要です。

 

なんだか大げさに書きましたが、このくらいのことは、もっと器用なサルたちにとってはなんてことない簡単なこと。実際、私が他に担当しているシシオザルやトクモンキーの場合は、同じような構造のフィーダーはあっという間に攻略されてしまうので、いかにエサを取り出しにくくするかに苦心しています。
しかし、以前このコラムでも触れましたが、ハヌマンラングールは前肢の親指が極端に短く、サルなのに(なんていうと失礼ですが)えらく不器用。

タラ・サトの伯母さんであるソフィーの右前肢。

 

何日もフィーダーが設置され、中にエサが入っていることも フィーダーの構造(といっても筒に穴が開いているだけ)もわかっているのに、かなり操作に難儀していました。
本当のところはタラとサトに聞いてみないとわかりませんが、かれらにとってこのフィーダーは操作が難しく、そんな手間や時間をかけてまでサツマイモ食べなくてもいいや…ということなのではないかな?と推測してみました。

   

では、次はどうしたらいいのでしょう?
もっと簡単なフィーダーにする?
でもこれ以上簡単なものでは、そもそも操作にあまり時間がかからず、フィーダーなしの状況と大して変わらないのでは??

 

さて、私の次の一手やいかに。
長くなってきてしまったので、それはまた次回のお話にしましょう!

著者プロフィール

川出比香里(かわで・ひかり)

1991年生まれ 埼玉県出身
専門学校を卒業後、埼玉県こども動物自然公園でのアルバイトを経て、2012年にときわ動物園就職。偶蹄類が好きでサルは大の苦手だったが、担当になるとあっという間に夢中になり、今では3児(すべてサル)の母。

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