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Vol.29 ハヌマンラングールのための環境エンリッチメント その2

2018.9.26

みなさんこんにちは!
酷暑が続いた夏も終わり、動物観察にぴったりの季節がやってきました。
秋はゆっくりと動物園を楽しんでくださいね!

   

さて、前回に引き続き、環境エンリッチメントのお話です。

 

私はこれまで、ハヌマンラングールについて、環境エンリッチメントの中でもエサのメニューや食べる行動に注目した採食エンリッチメントに特に力を入れてきました。
ほとんどの場合、野生動物は動物園でくらす動物と比べて、食べものを探したり食べたりすることにより長い時間を使うといわれています。野生のハヌマンラングールは、活動時間のうち約30%を採食に費やしているそうです。昼行性のかれらの活動時間を日の出から日没までの12時間とすると、3時間半くらいは食べていることになります。また、木の葉をたくさん食べて大きな胃で微生物発酵をするために、食べたあとゆっくり休む時間もたっぷりとります。

食べて…

移動して…

食べて、休んで、食べものを求めて移動して、食べて、休んで、移動して…
そんなくらしをするサルなんですね。

 

では、ときわ動物園ではどうでしょう?
ビデオカメラで観察をしてみたところ、食べることに関わる時間はどうやら長く見積もっても一日2時間ほど。
それ以外の時間に何をしているのかというと、とってもたくさん休んでいるようでした。
先に書いたように、リーフイーターのかれらにとって休むことはとても大切なことなのですが、おなかを落ち着けるために休んでいるのか、それともやることがないから動かないのか…
本当のところはかれらにしかわかりませんが、野生よりもずっと刺激の少ない環境で、少ない運動量、採食時間も短いので、「退屈だから」という理由のほうが納得できてしまうように思えます。

 

そんなわけで、採食時間を延ばして退屈(かもしれない)な時間を減らしたい!
という目標をもって、かれらの採食エンリッチメントに取り組んでいます。

   

取り組みはいろいろあるのですが、ここでは室内でのフィーダーを使ったエンリッチメントについてみてみましょう。

 

当園の4頭のハヌマンラングールのうち、こどもたちはおとなに比べて食べるスピードが遅く、人工哺育であることもあり、いっしょにエサを食べる時はおとながたくさん食べてしまいがち。育ち盛りのこどもたちにしっかり食べてもらうために、一日4回のエサの時間のうち一番最後は、こどもたち2頭だけで室内で食べてもらうことにしています。
エサを与えてからの1時間の様子を観察してみると、だいたい30分ほどでエサを食べ終えていることがわかりました。
1回1回のエサの時間を少しずつ長く楽しめるようにできれば、食べて休んで食べて休んで…というハヌマンラングールらしい生活に近づけられるのではないかなと考え、まずこの時の採食時間をのばすことを目標にました。

 

具体策として、フィーダーを使ってみることにしました。
様々な種類の動物に対して使われている、筒に穴が開いた単純なつくりのものを3つ用意しました。

他の種類のサルたちには簡単すぎてあっという間に攻略されてしまうこのフィーダーも、親指が短いハヌマンラングールにとってはなかなか難しいようで、時間をかけて使ってくれることもこれまでの試行錯誤からなんとなくわかっています。
そして以前から展示場に転がしておいたりして使っていましたが、展示場よりも狭く排泄物が落ちる床では衛生上あまりよろしくない、ということで止まり木に吊り下げる仕様に。

赤い丸の位置にフィーダーを設置しました。

 

フィーダーの操作や、中に大好きなサツマイモが入っていることを理解してもらうためにしばらく馴らす期間をとった後、様子を観察してみました。 与えるエサは、葉野菜、ブロッコリー、セロリ、キュウリ、ピーマン、木の葉、そして大好物のサツマイモ(エンリッチメント実施前は他のエサと同じように室内にポンと置き、実施後にはフィーダーの中に入れました)。

観察時間はエサを設置した室内にこどもたちが入ってきてから60分、1分経過するごとにその瞬間どんな行動をしていたかの記録を、エンリッチメント実施前と実施後にそれぞれ10日間行いました。

 

すると…

 

設置前には30/60ほどだった採食時間が増え、フィーダーを操作してエサを探す行動も含めるとだいたい42/60ほどに!

 

さらに、行動のリズムも変わっていました。

これは、エンリッチメント実施前と実施後の、ある日のタラ行動です。
実施前(フィーダーを取り付けていない状態)は、まず採食を続け、その後はサトとグルーミングをしあってすごしていました。しかし実施後(フィーダーを取り付けた状態)には、採食の継続時間が短くなって合間にグルーミングや休息をはさんで分散するようになりました。この図はそれぞれある日のものですが、観察したそれぞれ10日はほぼ同じような時間配分で行動していました。

 

さらに、利用場所、つまりどこにいたかということも記録してみました。

高さによってH、M、Lの3層に分け、お客様に近いガラス面側から奥に向かって1、2、3と分け、室内を全部で9つに分割して記録しました。
実施前は6割以上をH2の場所で過ごしていましたが、実施後はそれが分散しました。
実施後にM層の利用が増えたのは、フィーダーの設置があるためではないかなと考えています。

 

ここではタラの行動のみ見てみましたが、サトの行動にも似たような変化が現れました。

 

フィーダーを設置しただけでこんなに変化があったことに少しびっくり。
また、普段は飼育管理作業に追われて1時間ゆっくり観察することはできないので、こんなにグルーミングをしていたこともビデオを見て知った発見でした。思わぬところでほっこり。

 

というわけで、採食時間をのばす目的はひとまず果たせたようです!わーい!
…しかし、まだこれには続きがあって…

   

すっかり長くなってしまったので、この続きはまた次回!

著者プロフィール

川出比香里(かわで・ひかり)

1991年生まれ 埼玉県出身
専門学校を卒業後、埼玉県こども動物自然公園でのアルバイトを経て、2012年にときわ動物園就職。偶蹄類が好きでサルは大の苦手だったが、担当になるとあっという間に夢中になり、今では3児(すべてサル)の母。

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