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Vol.96 当たり前のこと

2020.12.29

12月に入り、福岡でも小雪がちらつく日がありました。
今年は寒さが厳しく、寒がりなわたしは昨年より多く重ね着をしています。
でも、冬の、澄み渡った青空や色づく木々の葉や白い息を吐きながら見上げる夜空などがとても好きです。

きれいな紅葉

さて、わたしの大すきなラッコは寒いところに生息しています。その生息域は千島列島からアリューシャン列島、アラスカやカリフォルニア沿岸などで、かつては日本でもオホーツク海沿岸、襟裳岬など北海道東部に生息していたと言われてます。
しかし、保温性が高く、美しい毛皮を目的とした乱獲によりその個体数は減少し、現在ではIUCN(国際保護連合)のレッドリストで絶滅危惧種に指定されています。

実は貴重なん!

今から十数年前のはなしですが、北海道にゴマフアザラシを引き取りに行ったことがあります。当時、襟裳岬近くに野生のラッコが回遊しているという話を聞いていたので、もしかしたら見ることが出来るかもしれないという期待を抱いて襟裳岬を訪れました。
岬には「風の館」という施設があり、そこでは野生のゼニガタアザラシを観察することが出来ます。施設の方にラッコのことをお尋ねしたら、時々見かけるとおっしゃったので、先輩と一緒にしばらく粘ってみたのですが、結局ラッコの姿を見ることは出来ませんでした。
その後も北海道を訪れる機会はありましたが、野生のラッコには会えずにいます。

2020年7月11日の北海道新聞電子版で釧路市の霧多布岬周辺でラッコが繁殖しているという記事を読みました。同紙によると、ここでは一年を通して陸上からでもラッコの様子が見られるらしく、繁殖もしているようで、母親に甘える赤ちゃんの泣き声がきこえてくるとのこと。
インターネットやテレビ放映などをきっかけに、見物客が増えているそうです。

人々がラッコに会いに行くのはなぜでしょうか?珍しいどうぶつだから?単純にかわいいから?
惹かれるポイントは人によってさまざまでしょう。
生きものは、それぞれが生きる場所を選び、その環境で生きるために適応しています。
そこでの生活を当たり前として生きています。ラッコは極寒の地を生きる場所として選び、防寒のための毛皮を手に入れ、たくさんのエサを食べてエネルギーを生み出す生活スタイルを見出しました。
寒がりなわたしにはとても真似できないことが、ラッコにとっては当たり前。
わたしはそんな野生のラッコの生きざまを、肩をすくめ足踏みをしながら見てみたいです。

美しい生きざま

霧多布岬周辺に生息しているラッコたちは主にバフンウニや貝類、カニなどをエサとしているようです。
ラッコが食べるウニはコンブをエサとしています。コンブ漁師にとってのラッコは、ウニによるコンブ減少を防ぐのに役立つ存在となります。
一方で、ウニ漁を中心としている漁師にとってのラッコは大事な種苗を食べてしまう憎い存在になってしまいます。立場が違うと見方も変わりますね。
自然界には数えきれないほどの生きものがいて、それぞれの生きものはお互いに食う・食われるの関係にあり、さまざまな生きものの、その役割によって生態系のバランスが保たれています。

さて、2020年がまもなく終わろうとしています。
今年は誰も経験したことがないことがたくさん起こりました。
戸惑ったり、焦ったり、不安や恐怖を感じたり。そして心配したり、応援したり・・・。
からだもこころも大忙しの一年でした。
わたしはこれまで当たり前に出来ていたことが出来ない歯がゆさをたくさん感じるとともに、自分にとっての「当たり前」を考えるきっかけにもなったと感じています。
わたしにとっての「当たり前」と他の人にとっての「当たり前」は違っていて、でもそれぞれにとってはごく「当たり前」のこと。そのことを尊重しながら過ごしていけたらいいなと思います。

あなたにとっての当たり前は?

2021年もまだまだコロナウィルスとの闘いは続くでしょう。
どうか、皆さんも体調管理に気を付けてよいお年をお迎えください。

著者プロフィール

土井 翠(土井 みどり)

佐賀県出身。1997年4月 マリンワールド海の中道に入社。
同年7月に展示部海洋動物課に配属後、アシカ・アザラシ・ラッコの飼育業務やショー運営を行い、現在に至る。
動物たちは我が子のようでもあり、友達でもあり、一緒に仕事をする大事な仲間。

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