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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.48 冬のタヌキ

2018.1.10

 写真撮影との出会いは10歳のころでした。しかし、撮られることに無類の喜びを感じたのは物心ついた幼少の頃からだったと思うのです。雨上がりの帰り道、近所の人に友達と撮ってもらった記念写真が嬉しかったことは今でも覚えているからです。
 写真とは物凄く力があるものです。記念写真に例えるならば、撮った人も撮られた人も、時にはその写真を見た人までもが喜びに満ちてくるからです。そんな魅力に吸い込まれるように没頭しだしたのが10歳だったのです。ただ、興味の対象は人ではなく鉄道と鳥。なぜなら、それらは動きが早くて、車体や姿や模様等の細部を見ようとしてもわかり難いが、撮ることが出来るならば詳細にわかるという楽しみがあったから。
 高校あたりから次第に被写体はいきものにシフトしていったのですが、そのころになると、自分が撮った写真に多くの人が感動してもらいたいという欲求が湧いてきました。被写体のテーマは限定的ではなかったものの、好きなものを撮って感動を分かち合いたい。それこそがプロフェッショナルな喜びの極みであると感じ始めていたのでした。撮影する写真にいのちを吹き込むという、そんなハードルの高さがあったものの、それも意欲をかき立てることに繋がり、結果的には写真を続けられたと思っています。
 いま、私が取り組んでいる被写体は里山のいのち。それらは時に昆虫であり、渓流魚であり、哺乳類でもあるのです。ただ、その中でも今一番面白味を感じるのは哺乳類です。里山の哺乳類は夜行性であることが多く、また警戒心も強く簡単には遭遇出来ません。ましてや遭遇出来たとしても一瞬に走り去ることが多くて、なかなかその姿を観察出来ないものなのです。ここまで書くとお判りかもしれませんが、私にとっての興味ある被写体とは、やはり昔から変わることなく、じっくり観察できない対象ということになります。
最近は「Mr.Robot」と自ら命名した自動撮影カメラを山中に放置して写真を撮っています。それはけもの道であり、小川のような沢の中の場合もあります。もちろんそういったカメラには定期的な管理が必要です。電源の交換や整備点検という多くのメンテナンスが必要で、電源が年中入りっぱなしの放置機材である以上、機材寿命も非常に短いもので、機材更新が頻繁であるという面倒もあり楽には撮らせてもらえないのも実情です。
 失敗談ですが、あるけもの道の先に小さな沢がありました。そこには倒木が横たわっていたのです。動物たちはここをどう歩くのだろうか? それを知りたくてその沢の流れの中にロボットカメラを三脚に乗せ設置しました。杭打ちで固定したものの、ある日の大雨でその小さな沢が増水し、濁流で全機材が流され、総額20万円以上の機材が、文字通り水の泡と化したのでした。ただ、損失はデカかったものの、カメラを沢に設置して土砂に流されるまで実質約2週間ほどだったでしょうか。実に貴重な仕事をロボットカメラはしてくれました。このようにリスクや困難があるからこそ写真は面白いとも思っています。
 野生動物にとってみれば天候は生活を直接左右する事柄かもしれません。雨もあれば雪の日もあります。傘も家もない動物はどうしているのでしょうか。やはり私は興味が湧きます。そこにはいのちの営みや躍動があり、彼らも懸命に生きているはずです。そんな生き物たちの世界どう表現できるか、どうすれば彼らの存在をアピールできるか?それがカメラを操るものの使命だと思っています。
 走り去る、飛び去る姿を克明にとらえたい。そんな衝動から始めた写真の世界だったからこそ、いのちを捉える自分の撮影スタイルがあるのです。それは、これからも変わることなく、野生の世界にレンズを向け続け、知られざる世界にこそいのちの感動が溢れているということを伝えていきたいと思っています。

著者プロフィール

森勝彦(もり・かつひこ)

1963年石川県生まれ。立山の大自然とその地で生きる雷鳥に心を奪われライチョウ撮影がライフワークとなる。そののちブナ林にいのちを感じ雑誌に発表する。現在、里山こそいのちの原点であると多角的に撮影中。1997年 写真集「奇跡の鳥ライチョウ」(山と渓谷社・2010年 写真集「雷鳥―神々の使者」(TECS)出版。

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