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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.17 クマ

2012.11.9

以前から気になっていることがある。
自然に関わる事は、都合良く扱われすぎてはいないか?、と。

今年はサケマスの遡上量が少ないので、一尾一尾を探し、見定めてから捕まえる行動が目立った。
水中を覗く姿は、魚獲りが好きなおっさんにしか見えない。

今から二ヶ月程前だったか、僕の住む知床で痩せたクマが話題になり、メディアはこぞってそのニュースをしばらく放送し続けた。
中には専門家(なにかしら動物に関わりのある人)を交えて意見を求める、というものもあった。
普段、あまりTVを見ないので世の流れには非常にうといのだが、不思議と特定のものが視界に入ってくる事がある。
そして気になってしまった。

 

 

今年はサケ、マスの遡上量が少なく、その上木の実のなり具合も少ないのでクマが痩せているのだ、という主張だ。
しかし、それは事実ではない。

 

 

知床では秋が深まってからはどんぐり、やまぶどう、共に粒がはじけるように大きく文句無しの豊作だ、なので問題ない。
ニュース放送期には、まだまだ木の実が実るには時期が早かった。
サケ、マスの遡上に関しては僕の記憶にある中でも一番少なく、将来的な種の存続に不安を感じる程だった。
しかし、陸地面積に比べて河川の本数は少ないし、知床は細長く険しい地形のために全ての川の全域が上流/渓流なのでサケ、マスの遡上範囲は限定的だ。
といった理由から半島に生息する多くのクマは、さほどサケマスに依存できない。

ブドウがたわわだ。

しょっちゅう見るものではないので、餓えと関係があるかどうか判らないが、クマの糞から小さなクマの爪が見つかった例があった。
クマがクマを補食したのだろう。
クマが痩せているのを何頭か見たし、その時期エサが少なかったと考えるのは妥当だと思う。

森の中で目の澄んだ若いクマに出会った。

全国的になぜかあまり知られてはいないのだが、そして、恐らく僕も知床に住んでいなければ知らなかっただろうと思うのだが、昨年と今年で数量に急な変化があったものは一つだけある。 エゾシカだ。
冬期にエゾシカを大量に駆除した。
道路上にエサを撒き、おびき寄せての射撃や、大規模なワナを数カ所に設置したりといった手法で処分した。
この駆除についての情報を、痩せたクマと関連して提示したメディアは一件も無かった。
そして、シカ駆除に携わった地元の関係機関も「木の実が無いので‥」と返答していた。

月の輪模様が入っているが、立派なヒグマ。
真っ黒な個体、赤っぽい個体、混じったもの、月の輪個体、カラーバリエーションは多様。

うがった見方はしたくないのだが、シカを駆除した情報をあまり全国に提示したくないのでは?と感じてしまった。
自然のことはよくよく調べてみないと結論を出すのは難しい。
結論を出せないにしても、情報を積極的に出さないうしろめたさとは何なのだろうか?。
クマがシカを補食する事実はクマのイメージを損ねるのだろうか?。
シカを大量に殺す事の批判や後ろめたさが存在するのだろうか?。
報道上の編集で大幅に切り取られてしまったのだろうか?。
それとも、単に僕の考え過ぎか?。

つやつやしたどんぐりを見ると僕も何だか嬉しくなる。

さまざまな原因と経過があり、議論も尽きてはいないので、シカの駆除についての賛否をここでは問わない。
それに、問題が発生した際に幾つかの解決策を試みる事はやはり必要だと思う。
試みた事と出た結果、幾つかの可能性、そして再考と再試行。
取り組んだ事と現状を濁さずに伝える努力を怠れば、意義をもつはずの取り組みや研究もただの個人や組織の趣味に成り下がってしまうと思う。

どんな場所でも器用に登る。

ニュースは知床のヒグマと関係のない本州のツキノワグマの出没と一緒くたにし、こう結んでいた。
「エサが少なく飢えたクマが人里や市街地へくり出している、これは地球からの警告で、忍び寄る温暖化が引き起こしている。」

確かにそういった側面も無くはない。
しかし、毛皮やクマの胆のう(クマの胆/くまのい、漢方薬)にさほど需要がなくなったり、春グマ駆除が無くなったりでクマの頭数は単純に増えている。

知床では例年通りであれば10月中頃には北風が連日吹きつけ、寒くなり、撹拌された海水は波の花を生じる。
今、(11月3日現在)になっても今年は暖かく、大規模な波の花はまだ発生していない。
海水温やサケ、マス、それ以外のいきものも気温とは密接な関係にあり、年々、僕の不安は大きくなる。
写真は09年のもの。

僕は今までに何度かクマがクマを追いかける姿を見掛けた。
体格や性格の強いクマが、立場の弱いクマをテリトリーから追い出しているのだ。
こういった事は、市街地に隣接した森林のなかで日常的に起こっている。

クマ出没の報道で大きなクマが目撃された例はほとんど無い。
体の小さなクマや子連れのクマ、痩せたクマが目撃されているのは、それが森から人里、森の輪郭線へ追い出された弱者である為だ。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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