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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.96 犠牲。

2019.6.21

 春から夏の間は、たくさんの哺乳類や鳥類にとって子育ての大事な時期だ。
何せ、知床半島では9月中旬に山頂部に雪が降り、初冬が到来する事もある。
これを書いている今は6月だから、あと3ヶ月と少々を過ぎれば厳しい季節を迎えるわけで、それまでに冬を過ごせるように子供には育ってもらわなくてはいけない。

岩の深い場所に巣を作る

随分前にオオセグロカモメの記事を書いたが、確認をしてみたら4年も前だ。
そのオオセグロカモメの営巣地と同じ場所は、徐々にウミネコが支配的になり、今では完全に入れ替わってしまっている。

ウミネコの、目立つ黄色い脚。

ニャアニャアと鋭く鳴くウミネコを観察していると、時々、断崖・視界の端の方から黒々と鳥影が沸き上がり、飛び乱れる。
急を告げる鳴き声が断崖に反射して響きわたると、間も無くひときわ巨大な鳥影が群れの隙間から漏れ、見えた。
オジロワシによるコロニーの襲来だ。

あまり人気のあるトリ、とは思えないが僕には可愛らしく見えている。

オジロワシは言うまでもなく大型の鳥類で、寿命も長く、数十年は生きる。
こういった攻撃力の高い、捕食者の頂点に君臨する生物が子育てをした場合、生存性は格段に上がり、順調に繁殖を続けることができる。
しかし、頂点の捕食者が数を増やせば、当然それを支える捕食される側の生産性は下がる。

調査用の足輪を時々見かける。刻印はkanagawa・Tokyo
ウミネコは季節によって居住を変える渡り鳥だ。

鳥種が入れ替わる間、変化は様々に訪れた。
ワシの数が明らかに増えたな、と感じるのに反比例し、オオセグロカモメのヒナは生存性が下がった。
最初は広い場所にただ巣が作ってあり、そういった場所では当然、ヒナがほとんど育たない。

孵化が始まった。

しかし、しばらくすると隣り合ったゴロタ岩が、ひさしのようにかぶさる場所に巣がかけられるようになった。
ひさしのような「段差」があれば、ヒナはゴロタ岩の奥に逃げ込めるし、ワシが手を伸ばして突っ込んでヒナを取り出す形になるので、ワシにとっては一手間増え、お手軽感がなくなるのではないかと思う。
かといって劇的に死亡率が下がるわけでもなく、仮に9割方だった死亡率が8.5~8割になるような状況だ。
この時点で、ウミネコとオオセグロカモメのコロニー占有率はウミネコが超えつつあり、その翌年は全くオオセグロカモメを見なくなり、ウミネコ一色に。

ヒナと似た模様の卵。
孵化が遅れているのか、それともしないのか?

その後の、ウミネコの適応力には素晴らしいものがあった。
ワシの迎撃を考慮して巣を作っているフシがあり、襲来をかなりの高い確率でやり込むようになった。
ワシは大抵、攻撃の最後に上昇気流に乗れる角度で、コロニーの正面か、右左のいずれかから単独で侵入してくる。
流れとしてはヒナを襲った後、そのまま上昇。再度の飛翔をし易い場所でゆっくりと獲物を食べる。

 

 

そんなワシを尻目に、ウミネコはコロニー内で、それぞれの間隔をあまり空けず、営巣場所を集中させ始めた。
巣を目掛けて飛び込んできたワシを正面から迎撃に、密集したまま無数に飛び立つウミネコは突入を防ぐ盾となり、圧力で押されたワシは、地上近くをよろよろと失速。

成長は早く、ふた回りほども大きくなった。

その後はワシの上空に数羽のウミネコがかぶさるように飛び、頭を押さえ、つつき、上昇を防ぐ。
これにはかなりの防御効果があったようで、襲来と成功率は反比例を始めた。
僕の主観では飛ぼうが落ちようが、ワシは単にワシで、筋力とくちばしの貫通力は強く、仮に飛べないとしても、ウミネコよりはずっと攻撃力は上のはずで無敵の暴君のように思える。

ワシと戦って落命、尊いピエタ。

人間のように殴ったり、蹴ったりで相手を死に至らしめるような、暴力的な実力がウミネコに備わっているようには全く感じない。
対空防御の攻略が難しいなら、地上を歩いてヒナや卵を襲えばいいだけのように思うが(偶然かもしれないが、そうしたケースもなくはない。)なぜか、そういった捕食をワシはほとんどしない。

ワシをやり込めるウミネコの防空戦術。(中央、奥。)

もしかすると鳥にとって「落ちる」事には潜在的な抵抗感があるのかもしれないし、無表情に見える鳥の群れは、実は集団ヤクザ的気迫で、ワシにはかなりの恐怖なのかもしれない。
そういえば、クマをやり込めるエゾシカも結構居るから、最後は気合い、という事か?

大鳥の影を察知し、ひさしに隠れるヒナ。

ウミネコは素晴らしい防御力を見せつけ、ヒナ自体の、短時間での生存率(最終的な巣立ちを指さない。)を僅かに上げつつあった。
しかし、どんなに知恵を絞ろうとも、懸命にヒナを守ろうとも、オジロワシの産卵数は毎年1~2個で、観測地点でのワシは毎年無事に巣立っている。

ウミネコの営巣もまたワシの圧力に押され、減りつつある。

チームプレーのように意図したものではないとは思うが、ワシの数が増えているので、攻撃が複数でほぼ同時に、あらゆる角度から連続に起こるとウミネコの盾は一方向しか効果がなく、どんなに巧みに防御を施そうとも限界がある。
見込みのない悲壮な抗いが、今日も続く。

生きる事の本質は。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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