日本全国の動物園と水族館をつなぐ情報誌、「どうぶつのくに」「どうぶつえんとすいぞくかん」公式Webサイト

どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.105 甘い樹液の出る季節。

2020.3.18

北海道から無くなってしまったのではないか‥と感じる冬だった。
いつもなら、年末には結構な降雪があるのだが、年が明けても雪はなく(毎年、同じ時期に同じ事を書いてはいるけれど、毎回、前の年よりも更に少ない。)。
もちろん本州と比べればそれなり、なのだろうが、寒さもさほどで誰かと会っても「-5℃が暖かい」といったセリフもあまりなく。

寒気が緩み、けものが活発に動き始める。

トドマツの葉が冬の食事だが、小さな木なら丸裸にしてしまう事も。

ある日、シカ撃ちの方と「シカがいないね」と話をすると「吹きさらしで雪がないから山頂にいるのさ」と返事が。
別の日に集落の銃持ち(と言っても知り合いは半数が銃持ちだ。)の人間と酒を交わし「シカは山の上にいるらしいですよ」と話をすると「おお、お前ここ数日飛行機飛んでたの知ってっか?」「はい、飛んでましたね。」「あれは半島のシカの調査してたんだけど、雪が少ないから山の上にかなり居たってさ」という会話が。
いつもの冬の山の過酷な環境を思うと、妙な気分だった。

カエデの木が眠りから覚め、甘い樹液がにじみ出ると、あらゆるけものや鳥が樹液を舐める。

時折、麓で見かけるシカも痩せている感じではなかったので、シカ的には相当過ごしやすい山だったのだろうか。
「お前が引っ越して来てからいつもの大雪無いもんな、なんて運のいい奴なんだと思ってたわ」昼から呑んでいた、という結構な赤ら顔で、町から引っ越して1年と半年が経とうとしている僕の家の山奥ぶりを冗談交じりに笑われた。
引っ越す前の町中でも、酷い時には1日で2メートルの積雪が3日間続いた事があり、終わらない雪かきには背筋が凍る思いがした。

樹液を吸ってべたべたに濡れた自分の尻尾を吸い、

暖かな日差しの下でうたた寝をし、

それを思えば確かに運がいい。
が、温暖になり、鮭も居なくなっている時世に、怖いけれども楽しみにしている大雪の洗礼を今後期待できるものだろうか‥と疑問に思う。
それでも、曲がりなりでも季節の運行は進み、2月末にはいつものように北風が吹き付け、極端な寒気が町を襲い、それぞれは小さいけれども流氷群は半島を覆ってひしめいて、家の水道が凍結した。

出会いがあって、

お腹が空いたらまた樹液を舐め。

流氷だけは数年内では飛び抜けて多く、見応えのある風景が広がっている。
しかし、知床に棲み始めて10数年を知る者としては、雪のない景色に流氷が浮き立ってしまい、異様さを感じずにはいられない。
そして3月に入り1週間が経った頃、暖気が支配的になり、雪に変わって雨が降り、けもの達の動きが活発になってきた。

広い世界をたくさん巡り遊んで、

寒気が引いてしまったので、今年はもうまとまった雪が降る事もないだろう。
いつもならここから川に雪代が交じり、増水が目立ってくるのだが、まとまった雨が降った日が過ぎて数日経った今、川や沢には早くも渇水の様子が見て取れる。
どんなに少ないといっても雪が溶け続ける雪解け期だ、川の水が引く事はまずない訳で、山頂の降雪がどれほど少なかったか、だ。

恋人を大きな毛皮で抱いて、新たな受胎が告げられるのだろう。

時折、地球は気象的にバランスをとる動きを見せる。
今後ほどほどの雨が降ってくれて、夏の水害レベルの雨が杞憂であればいいけれども。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

カテゴリー

カテゴリー一覧

このカテゴリーの他の記事

ページTOPへ

Copyrights © 2010 Doubutu-no-kuni All Rights Reserved.
誌面、Webにおけるあらゆるコンテンツの無断複写・転載を禁じます。