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Vol.79 川の道化師、カワガラス

2018.1.14

 年明け前、世間は寒気の強さと、雪の多さで騒いでいた。 ニュースを見る限りは東北地方周辺や、本州の一部地域では積雪が多いようだった。
それに引っ張られたのか、今冬はひときわ寒い冬になる‥といった予報も立てられていたように思う。

軽い雪に飛び込むカワガラス。
好奇心の表現の仕方がどことなく猫っぽい。

これに対して僕の見立ては真逆だった。 今冬はまとまった雪は降っていないし、時折入り込む寒気は確かに厳しいものの、何日も続いていない。 と、いうことで僕の今年の知床の冬の見立ては超暖冬で、流氷の展開も早く、退くのも早いと予想している。 実際、現在の知床の平地での積雪量はわずかなもので、1メートルを超えてない。 快晴が数日続き、日光が当たれば積雪の大部分は溶けて無くなってしまうだろう。

サケ卵を探す暖かそうなカワガラスの背中。   細かな毛が密集していて、保温・防水効果が高そうなのがわかる。   意外にも近くで見ると名の由来の通りの黒色ではない。

 温度差で発生した川霧が凍った、アイスフロストの覆う雪を踏み分け渓流沿いを歩き、川へ降りる。 谷沿いは山からの冷たい風が通り抜け覆っているので、周囲の雪はふかふかしていて心地よい。 水辺はカワガラスの領分だ。 一息つくと、チラチラとわずかに降ってくる雪を跳ね飛ばし、カワガラスが「ジッチ・ジッチ」と鳴きながら高速で飛び、水面近くの風を切り裂き、侵入者 を確かめにくる。

サケ卵を見つけた。

「侵入者を確かめる」という言い方だと、排除や警戒を思わせるが、カワガラスは好奇心と負けん気の強い鳥。
どちらかというと、楽しいイベントを期待して遊びにくる様子だ。
小鳥の期待に沿えるかどうかわからないが、岸に座り込む。
毎日の数時間をこうして何気なく過ごすと、カワガラスは「この人はそういうものだ」と思うらしく、何かを期待させる者?の周りで餌を探したり、川面に 突き出た雪をかぶった岩を障害物に見立て、高速で飛び、兄弟でエアレースを始めたりする。

 

 

これがまた見事で、高速でのターンは惚れ惚れする鋭さだ。
カメラのオートフォーカスは全く追従できない。時速を測った訳ではないが、60キロは出ているだろう。
カメラは遠距離で高速移動するものを追いかけるのは得意だが、至近距離では小さく、早すぎるものは追従できない。
ファインダーを覗いている感じだと、野球のバッティング時に球が飛んでくる感覚に近いと思う。

羽根を末端まで目一杯広げて急なエアブレーキ。 もう一羽へ、高速着陸の雪しぶきをお見舞いする腹積りだ。

僕は昔からこの鳥が好きだった。 鳥類には全く興味がなかったが、カワガラスは(と、カケスも)別だった。
実家の前が川だったせいもあり、イワナを釣りに渓流で過ごす時間の多かった僕の周りを、いつも上流・下流へと行き交い、ついてきた。

日々降りかかる川の水が珍妙な造形を作り上げる。

身近なかわいい生き物だ、という点でニホンザリガニやウサギ、サンショウウオやクワガタと変わらない位置にあって、そのあたりが最愛でもあり。
自由な生活をしている自然の生き物だが、沢に入れば僕の隣人でもあり、僕のペットでもある。
付き合いが深まるにつれ、お互いの距離も近くなり、素手で捕まえる技まで習得してしまった。
過去には、こうやってサケの稚魚を食べる風景を将来自分が撮影するだなんて考えもしなかったが、ここが年齢を重ねる事(経験値の上昇)の素敵なところだろう。

鋭い爪を持っていても、うっかりすると滑り落ちる。
緊張気味の一コマ。

それもこれも、気が強く、好奇心にあふれ、おっちょこちょいでもあり、他者を許容するカワガラスの性格があってこそなのだが。
僕はもちろん、クマやシカ、キツネやタヌキ、テン、オジロワシ等々、川辺に行き交う多くのいきものにも心があり、景色の見え方はそれぞれの心に左右される。
川へ行き、そこが仮にうら寂しい景色だったとしても「ジッチ」と鳴き声を響かせ飛来し、場所を少し豊かな時間に変える愛嬌者の道化師。

時間が進み、卵から孵化した仔魚を捕まえた。  間接的にサケが育てる動植物は非常に幅広い。

昨秋のサケの遡上が少なかったせいで、エサが少なくカワガラスは越冬に難儀をしているが、頭の良い彼らの事だ、暖冬とはいえ厳しい冬もどうにかやり過ごすだろう。
人間が生活をする上では雪が少ないのは楽で喜ばしいことだが、昨年のサケの溯上の少なさや環境の激変、いきものの習性の変化、その結果失われてゆくものを思った時に、もはやどうにもできない所へ来てしまった気がしてしまうのが、杞憂であったらいいのだが。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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