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Vol.104 遅い流氷と魚祭り。

2020.2.26

ここ数年、流氷は遅くとも2月の初週には接岸していたが、今年の到来は遅かった。
一口に流氷と言っても、ただのシャーベットや、それよりもやや硬めの薄氷等の様々な形態のものがあるし、岸や崖のどこからか雪庇が落ちたか、除雪作業で大量に投棄された雪も海面に浮いていれば流氷に見える。
もちろん「流氷接岸」の公式発表を担う部署はあって、網走地方気象台が接岸の判断を下しているが、網走管内は広過ぎて、それぞれの地域の個人的な感覚とは当然ズレも生じる。

海上がシャーベットに覆われ始め、同時にカモメが波間に群がっている。
「氷泥」と呼ばれる状態で、カモメ自身も身動きが取れなくなるリスクがあるにもかかわらず、そこに居る。
ということは何かしらの食べ物があると見ていい。

カラスがガヤ(エゾメバル)をくわえて飛んできた。
ガヤの呼び名は煩わしいほどそこに居る意味から。市場価格は一箱100円。

今までの経験上(といっても僕の経験は10数年に過ぎない。)流氷の到来には順序があって、気温が下がり、シャーベットが少しずつ押し寄せ、それがしばらく続き、波が荒れる。
シャーベットは荒れた波によって都度打ち上げられ、海岸にうず高く積み重なって凍りつき、海岸線を阻むように壁ができる。
これが一月下旬。
それが一段落すると穏やかな日が一瞬あって、港に薄く氷が張り、翌日朝に硬く、大きめの流氷帯が押し寄せる‥という具合で、これが2月初週。
今年はこの順序が全くなく、気温も暖かく、雪もほとんどなく。
これを書いている今日までちゃんとした除雪の必要は一度もなく、道路も露出している状態だ。

オオワシもやってきた。が、濡れを嫌ってシャーベットと少し距離を取っている‥のがあからさまで可笑しい。

何気ない風景のように見えるが、よーく見ると画面中段に鳥の群れが。
黒点は全て鳥。

北海道には、周囲を囲むように暖流が時計回りで流れていて、これがある種の防御壁になっている。
そこへ流氷は稚内の北、サハリンの向かって右側を南下する寒流に押される形で下がって来て、加勢する北風と共に暖流の防御壁を突き破って北海道への接岸を果たす。
1月に入ってから僕は連日、流氷情報をパソコンと携帯で眺めていた。
流氷情報は大まかに2通りあり、一つは人工衛星からの情報でカムチャッカ半島の根元あたりまでの広範を表示したもの。
もう一つは衛星情報に航空機からの観測結果を加味して表示した北海道沿岸だけのものがある。

そこかしこで魚をつついてはいるが、時間が経ち、だいぶ興が削がれているようで。

昨日から続くパーティーにちょっと飽き気味、つまらなそうにガヤをつつく。
これが一箱100円の真価‥
トリも人も価格なり、味なりで評価をきちんとしている。(決して不味くはない。)

データを眺めながら「流氷来ないかもしれないなあ‥」と同じ言葉が毎日、頭を巡っていた。
今年のカムチャッカまでを含んだ衛星情報では流氷の総量はかなり多いから、来ない確率は元々低い。
しかし所詮は衛星なので、実際の氷の厚みはわからないし、事実、近海では流氷帯が暖流に弾かれるような動きを2月に入っても見せていた。
ある程度のシャーベットは時折流れ着いていたものの、それは前述のように雪を投棄したものとほとんど区別がつかなかったし、波の全てがシャーベットに変わる、という事もなく、大寒の日でもさほど気温は下がらず、雪もあまり降らないのは相変わらずだった。

一斉に飛び立ったな、と思ったら。

背後からオオワシが滑空。

そんなある日、急速に流氷が押し寄せた。
今年の気象台発表による接岸は2月11日で、僕の接岸確認(居住のウトロにおいて)も11日か12日くらいだったから去年比では2週間以上も遅かった。
過去には接岸の遅い年も普通にあるので、これがそのまま温暖化現象と結びつけられる訳でもなく、これ自体は単に遅かったと言う話。
しかし、その流氷の状態が過去の(去年と比べてさえ、もだ。)流氷と比べればほとんどシャーベットか、それが再結氷した、要するに「ゆるい」小規模な状態のものがほとんどだ。
海を覆う流氷帯が、大きな流氷が互いに押し合いへし合いをして重なり合ったり、そそり立っている様子ではなく、水平線の向こうまで穏やかな表情をしているのは、気温と海水温の高さを裏付けるものだと思う。

シャーベットの波に揉まれ、そのまま凍ったガヤがそのままそこかしこに挟まれ。

無傷さから飽きられているのがよく判る。(ガヤの名誉の為に重ねて言うが決して不味くはない。) 

網走での接岸発表と、そこからだいぶ離れた知床・ウトロでの接岸がほぼ同時だったから、流氷帯がかなりのスピードで展開したと推察でき、シャーベットも硬めの流氷も一度に混ざって到来した。
僕はやっとの到来でなんとなく安心したのだが、割りを食ったのは魚たちだ。
流氷が順を追って訪れていれば、気温が下がり、大量の流氷で薄められる塩分濃度を嫌って魚は徐々に沖合へ逃げ出すはずが、一気に距離を詰められ、逃げ場を失い、あちこちで魚が気を失ったり、シャーベットに揉まれ、斃死して浮いている。

空いている海面があったので、カヤックで流氷を迎えに行くと一羽のカモメが逃げる気配も見せず。

妙に思ってカモメに接近すると、立派なソイが浮かんでいた。
鮮度がよかったのでこれは僕の晩ご飯に。

1月にはそこそこ低かった海水温も2月に入り、急上昇していたから「今年は流氷来ないかも?」と思っていたのは僕だけではなく、魚も同様だったらしい。
気温が高いせいか、いつもはあまり見かけないカモメが大挙して押し寄せ、これまた冬にはあまり見ないウミウもちらほら佇んでいる。
カラスもワシもやってきて、氷上では魚パーティの様相で、魚にとっては恐るべき地獄絵図。

時間と共に柔らかな流氷が周囲を包み。

夕方には全ての海面を覆ってしまった。

いろいろなものは揺り返しを続けながら、個々の命の長さでは変化と思わせないほどゆるやかに変化を遂げる。 一世代前、二世代前の昔話が、現世代と噛み合わないのはそのためだ。 しかし、最近はその速度が速くなっていて、僕の経験が今の大学生くらいの年齢差で重なる変化の実感がかなりあると思う。 これまでは寒い日が続く中に、珍しく暖かな日があったりしたが、徐々に暖かな日が支配的になり、寒い日が珍しくなってしまうのだろう。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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