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Vol.61 Knock on wood.森の精霊。

2016.7.10

「くまげら」という鳥を知っていますか?
カラスほどの大きさで、静かに森を歩いていると、「けーけー」と鳴き、かなり近い距離まで寄ってきたり、かすめ飛んでいくような行動を見せ、ヒグマがガサガサ地面を掻 いていたりしていると、やはり様子を伺いに来たりします。

打撃時には相当な加速負荷(G)がかかるらしく、数値上は眼球などが飛び出すほどの出力だとか。 しかし、特殊な「まぶた」が三枚あり、打撃時に全てを閉じる事で抑えているという。  まぶたの様子に注目。

打撃時には相当な加速負荷(G)がかかるらしく、数値上は眼球などが飛び出すほどの出力だとか。
しかし、特殊な「まぶた」が三枚あり、打撃時に全てを閉じる事で抑えているという。
まぶたの様子に注目。

そんな彼らに、ごく近くまで近づいてもらう秘術があるのですが(秘術、ですから具体的な内容を明かすことはできませんが)コツは人間世界の営業職や、他人との付き合 い方と似ていて「こいつは変わっているな」とか「面白いな」と興味を持ってもらう事と、「どうやら無害なものらしい」と理解してもらう事でしょうか。
成功すると数秒間から数分間、腰を落ち着け、ほどほどに大きな、見応えのある姿を至近で眺める事ができます。

頭の赤色が広いのがオス。 強靭なクチバシ、がっしりとした脚、バネになる尾羽。   随所に生命力の強さが見て取れる。

頭の赤色が広いのがオス。
強靭なクチバシ、がっしりとした脚、バネになる尾羽。  
随所に生命力の強さが見て取れる。

 僕は職業柄、自然ガイドや、野外に関わる職業の方との付き合いが多く、酒宴では自然に関わる内容のお話が多くなるのですが、もし「どの鳥に襲われるのが一番コワイ か?」というお題があれば、ダントツでクマゲラを押します。
小さな瞳孔の無表情な眼差し、硬い木をやすやすと破壊するくちばしの打撃、確実につかみ、恐るべき打撃の支点となる脚の作り‥どれも普通ではありません。 尻尾の2本の羽根を見て欲しいのですが、これは普通の羽根よりずっと硬く、弾力があり、尾羽で上体の反動を抑えつつ、ムチのような頭の加速を生み、ボクン・ボクン、と 大きな打撃音が森に響きます。

舌の構造の略図。  両鼻穴から生え出た長い舌が後頭部を周り、前顎部へ抜き出る構造。  舌は筋肉の伸縮で長さを変え、可動し、打撃時の頭骨への垂直方向への衝撃を吸収し、受け流す。

舌の構造の略図。
両鼻穴から生え出た長い舌が後頭部を周り、前顎部へ抜き出る構造。
舌は筋肉の伸縮で長さを変え、可動し、打撃時の頭骨への垂直方向への衝撃を吸収し、受け流す。

これでもし背中や頭を小突かれたら‥自分が襲われる側の木の中の虫だったら‥と想像するとコワイですね。
北海道にはキツツキ類のような一ヶ所に住み続ける「留鳥」が少なく、渡り鳥が多いのですが、それは厳しい冬に食料を得る特殊技能を、ほとんどの鳥が持っていない事と も関係があります。

樹中の虫を捕食した1~2時間ほどの仕事量。

樹中の虫を捕食した1~2時間ほどの仕事量。

クマゲラは、木の中に潜んでいる昆虫や、何かしらの幼虫を掘り出して食べていまして、さすが氷河期の生き残り、タフです。 深く木を掘る行動は冬の採餌と、巣穴を掘る以外にはあまりやりませんが、彼らも多少は頭が痛いのかもしれません。

エサを運ぶ合間、短い時間のデート。  向かって左がメス、右がオス。 仲が良く、生涯相手を変えないのだとか。

エサを運ぶ合間、短い時間のデート。
向かって左がメス、右がオス。
仲が良く、生涯相手を変えないのだとか。

モヒカン的なファンキーな感じの顔のデザインもいいですね。
映画「マッドマックス」とかに出てきそうですし、オーストラリアのヒクイドリにも若干(?)似ている気がします。

誕生後、日が浅いうちは子供の姿は見えない。

誕生後、日が浅いうちは子供の姿は見えない。

ちなみにヒクイドリは全長が2メートルほどになり、人間を蹴り殺す事ができる世界で最も危険なトリ、と言われています。
しかし、もしクマゲラが2メートル程度あれば、ヒクイドリ以上に恐れられる事は確実です。
蹴り殺す、どころか人間の頭をスイカのように容易く割る事ができるはずですから。

元気な三羽のちびヤンキー。  上が男の子で、下の2羽は女の子のようだ。

元気な三羽のちびヤンキー。
上が男の子で、下の2羽は女の子のようだ。

巣穴を観察していると、親鳥は1時間に2度ほど戻ってきては、子供達にエサを与えていきます。
この、ちびモヒカン達が巣穴から顔を見せるようになると、巣立ちまではあと数日。

クマゲラの眠る森に、北斗七星が舞う。

クマゲラの眠る森に、北斗七星が舞う。

家族のだんらんの時を惜しむように、親鳥はせっせとエサを運び、時には子供にナイショで短い時間のデートを楽しみながら、1日を忙しく過ごします。
そうそう、ヨーロッパやアメリカではKnock on wood.というおまじないが古くからあり、不吉を追い払うんだそうです。
クマゲラは毎日木をコツコツ(穴掘りではなく、合図的に軽く)やってますからクマゲラさんの棲む森は何だか縁起が良さそうですね。

きっと忘れない、かけがえのない時間。

きっと忘れない、かけがえのない時間。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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