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Vol.74 熊の夏休み。

2017.8.7

 夏は、クマにとっては食料事情が厳しい季節だ。
新芽の育つ春であれば、食べられる植物がたっぷりの栄養を含んで次々に伸びてくるが、植物には賞味期限がある。
次第に多くは防御のための毒やアク、痛いトゲをその身に宿し、さすがのクマも敬遠気味。

森の中の「道」を行き交うアリの群れ。
アリは尻から蟻酸を出しながら歩き、お互いや群れを誘導し、全体が決められた場所を歩くのは有名なお話。

旬があったり、食べる野菜と、食べない草を区別しているところは人の生活とも良く似ている。
秋になれば木の実が実るものの、それまでの2ヶ月ほどをなんとかやり過ごさなくてはいけない。
しかも北国とはいえ知床のオホーツク海側はかなり暑く、消耗に更に拍車がかかる。
結果、まとまったカロリーを得る事が難しいので、どのクマも次第に痩せてくる。

薄暗い森で虫探し。

この時期に、クマが食べているのを良く見かけるのはアリだ。
アリの巣があるらしい土を掘り返したり、頭をつけて舌で舐める姿を度々見かける。
アリ?と疑問を持たれた方、興味のある方は、試しにアリを一匹、つまんで匂いをかいでみてほしい。
レモンかパクチーのような匂いがするはずだ。

ひたすらアリを舐めるクマ。
ラムネ的な粒状の駄菓子を夢中で舐める人の子供にも様子が似ていて、なかなか終わらない。

コツは二度、匂いをかいでみる事。
一度目は強烈な酸臭を鼻が受け付けない事が多いが、二度目は鼻が慣れ、多分、良い匂いに感じるだろう。
アリの出す蟻酸の匂いそのまま、味も酸っぱく、これがクマを強く惹きつけるらしい。
ペロペロと舐めてひたすらに食べるのだが、銃で撃たれたクマの胃袋を調べたところ、10リットル程度の蟻が出てきた‥なんていう話さえある。
森の中は潮干狩り場的で、ひっくり返された岩や、砕かれた倒木が散在し、アリ以外にも種類的にエビ類に近いワラジムシなども食べている様子。
そんな荒らされた森林内の様子は、生存のための懸命な姿を想像しなくもないが、どちらかというと無邪気に楽しんで過ごしている雰囲気が強いように思う。

倒木を引っ掻き、虫を探したらしく、爪跡が幾筋も残された腐倒木。
結果的に風化は早まり、新たな木々や植物の苗床になるべく土へ還ってゆく。
知床の土を耕している農夫は、多くのクマである。

今年の知床は一時的に猛暑があったが、全体的には冷夏だ。
例年であれば5月から暑い日が続き6月は若干落ち着くものの、8月いっぱいまでは熱帯夜も少なくなく、北海道の地方で室内クーラーを持っている家庭はほとんど無いので、クーラーを買うか買わないかが毎年話題になる。

樹上にもアリの道がある。
小さいながら、その咬筋力は凄まじく、試しに巣穴にティッシュを詰めるとあっと言う間に粉にしてしまう。
彼らはクマの命を繋ぐ食料であると同時に、クマと同様、森を耕す農夫でもあるのだ。

この原稿を書いている今、時計はAM7:45を表示しているがひんやりと寒く、一週間ほど前からはすでに秋風らしきものを感じている。
涼しく、過ごしやすい夏になったのは、毛むくじゃらの連中には一つ朗報だろうけども、その冷夏のせいか今季はセミが少なく、鳴き声も抑えめだ。
そのまま、待望の秋の実りに影響が出なければいいけれども‥。

脱皮を失敗したのか、アリに襲われたのが先か?
巡り輝き、そこかしこで命の光が煌めいている。 

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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