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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.71 巡る季節。

2017.5.11

 季節が移ろいでゆく。

片方のツノが落ちた鹿。
なんだか散髪後のようにすっきりしている。

先日までは雪深い景色だったのが、それも消え去り、産卵期のエゾアカガエルが鳴き始めた。 今年は雪が解け始めるとすーっと素早く引いていき、いつもは一日、二日の寒気と大雪のぶり返しがあるものだけど、それも戻ってこない。 実は今、これを書いている最中、早くも桜が咲き始めている。

森を抜けたり、障害物をくぐったりするときにツノが当たり、落ちる事が多い。
落ちた直後は少し血が滴り、その度にかなり勢い良く走り回るので、痛みもあるようだ。 

例年であれば、知床での最初の開花まであと十日はかかるはずが、一部では満開のものすらある。 開花の差は、山桜の種類の違いや、ちょっとした沢沿いの寒暖の差だったりするのだろうけど、まだ咲いていない桜の木々はどうするのだろう‥?と少々心配。

カラスが毛の塊を咥えて飛んで行く。

雪の退く様子や温度の上昇などで時間の進行を感じるものだが、実は季節はかなり細かく進んでいて、生き物の暮らしを通した僕の季節観だと、十日に一度は大きな変化があるように思うし、農業的に見ても十日の時間差はもはや取り戻せないくらいのズレだ。

冬毛をむしりまくるカラス。
ほとんどの場合で鹿が嫌がる様子はない。

となると、四季どころか三十六季節ある訳で‥日々の生活が気ぜわしいのはここに原因があったのか‥と今更ながらに思ってしまう。

耳について膨らんだダニなどもついばんで食べるので、鹿は気持ちがいいらしい。

振り返ってみると、今冬の夜に流氷の隙間を縫い、カヤックを漕いだ時は、今までに無い程の密度で夜光虫が海面に輝いていて、凄いなぁと感心していた。そして本州では現在、貝毒や赤潮の発生がニュースになっているのは、プランクトンが多いという事だから、日本中で海水温が高く推移しているのだろう。

しかし‥。
そこはカラス、飽きるとイタズラ気質が首をもたげるらしく、抜いてはいけない毛をワザと抜く。
ギョッとする鹿と、カラスの意地悪な顔に注目。

今まで順を追っていた「十日ごとの節」が本格的に無軌道に入り乱れ始め、乱高下に揺れる様は、開花の揃わない山桜の花に象徴されている気もする。

嫌われる事が多いが、賢く、美しい鳥。

僕にとっての春はヒグマが起き始め、越冬で弱ったシカをクマが捕食してウトウト過ごし、メープルシロップがカエデから垂れ、日差しが長くなり、大気がぬるんできて、安堵を少し覚えたエゾシカのツノが抜け始め、数日後にはツノが生え始め一日単位で成長し、カラスがやってきて毛を抜き始める ̶ といった流れだ。

巣の内部に鹿の毛が使われ、卵の保温には重要な部材だ。
木々の葉が大きく広がり、巣を覆い隠してしまう頃、五羽程度の雛が誕生する。

これらがすべて、十日感覚で入れ替わってゆく様子は、なかなか壮大だなと思う。 この、命が流れる様子をいつまでも見ていたいものだが。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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