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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.83 芽吹きと、そそぐ柔らかな陽。

2018.5.14

 好きな季節が巡ってきた。
樹々の葉はまだないものの、涼しい、水気を含む優しげな大気の日々に、植物が土中から柔らかな芽を伸ばす。
最初はちょこんと座っていた土や枯葉をくぐった緑の芽が、ゆるゆると少しづつ伸びていく様子は眺めていて嬉しくなる。
嬉しいものはもう一つ。

丸顔の、美人な若いクマがのんびりと草を食んでいた。

世間には怖い、とか血に飢えた野獣のようなイメージを(そういえば去年は斜里町で襲われる事故もあったな‥)持たれがちなクマだが、このクマが懸命に若草を食べる時期で、これも何だか心を和ませてくれる。
といっても体の大きな動物であり、何かが気に障った場合は恐るべき存在で、かわいいヌイグルミのようなイメージを持つのは間違っているし、危険度が下がるわけではない。
食料の占有の観点から言えば、むしろ危ない時期ともいえる。
最近のネットニュースだったと思うが、インドでのナマケグマを見かけたバスの運転手が自撮りのために車から降りて撮影に向かい、食われてしまったという。
ナマケグマ‥と聞けばあまり恐ろしい感じはしないが、こちらの行動が間違ったものであればやはり怖いクマであり、かわいいパンダだってきっと野生のものは恐ろしいクマに違いない。

イラクサの若葉。よく見ると茎にトゲが生えている。

話が逸れた。

半島を包む海霧と、優しく降る小雨、薄雲を抜けて照らす柔らかな太陽に温められ、イラクサが次々に伸びてゆく。
イラクサは非常に厄介な植物で、藪漕ぎの際には肌の露出した部分を、時には服の上から容赦なく突き刺し、刺さったトゲは残り、肌を腫らす。

イラクサ繁茂(!)の中で大人食いするクマ、彼は思いの丈を尽くしているに違いない。
この伸びレベルであれば刺す痛みはあるはずだ。

一方でイラクサは服を作る繊維になったりもする。
アイヌの人々は、イラクサを揉んで作った服は白いので上物としたようだし、歴史的には本州でもイラクサで服を作るのは普遍的だったとか。
他にもアンデルセンの童話で「白鳥の王子(だったかな?)」ではイラクサを足で踏んで血まみれになり、苦心の上、作り上げた服を着せると呪いが解けた、みたいなお話もある。 そんな壮絶な作り方ではなく、きちんとした楽な製法があるとは思うが、世界的に繊維として利用されていたのだろう。

イラクサだけではなく、ヨモギやフキ、フキノトウの新芽も食べる。

思い立ってイラクサを、試しに一つ、そのままつまんで口に放り込んでみた。
シソよりも香りや刺激はないがコクがあり、味がしっかりしている。
驚くほど美味しい。

逃げない草と、のんびり食むクマ。

小さな伸びたばかりのイラクサであれば、立派なトゲはあるものの、肌には刺さらないし、手にも口腔にも痛みはない。
次々に手を伸ばしたくなるクマの気持ちがよくわかる。
けれども、若干伸びたものは時々チクリとするので、気をつけないといけないし、大量に取るのも難しい。
人間界には美味しいものはふんだんにあるから、面倒を重ねる必要はないとは思うが、味の良さはウドに勝っているかもしれない。

薄雲の下で、さくらが咲いた。

春先の、クマが食べる植物は場所によって多種あるが、水芭蕉のように、有害な毒があるけど他の必須栄養分の摂取のために食べるケースもある。
なので動物が口にするものを、安易に人が食べることを勧めはしないが、イラクサは僕が立証済みなので、トゲが怖くなければ興味のある方はどうぞ。
ただし、エキノコックスの危険もあるからきちんと洗ったり、煮沸などの手順をおすすめする。

ちまちま採って幾つかの料理を試してみる。
テンプラもおひたしも旨かったけど、加熱すると味が弱くなるようなので料理法も考えもの。
おいしいが、今後も採るか?と言われれば、さて。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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