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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.98 生命の波紋

2019.8.22

 僕はテンやオコジョ、イタチ、イイズナをまとめて親しみを込めて「胴長」と呼んでいる。
胴長族特有のぬめぬめした動きはユーモラスで、大抵は手が発達していて器用、一方で気が強く、他の小動物を攻撃し、積極的に捕食するような闘志も持ち合わせている。
北海道の胴長には本来もう一つの種類が居たが、これはもう観察することが叶わない。
ニホンカワウソだ。

ウチダザリガニ(これも外来種。北欧などでのザリガニパーティーの主役。)を捕まえたミンク。
ウチダザリガニは大型で腕がかなり後方まで回り込むので攻撃範囲が広く、捕まえる位置に工夫が要る。
原産地はアメリカ北西部なので、共生地も多分あるはず。ミンクも懐かしさを覚えているかも?

1メートルを超えるような胴長が、北海道の水際の森をぬめぬめと闊歩していた最後の時は1950年頃。
良質な毛皮が仇となり、乱獲の末に絶滅してしまった。
去年だったか、長崎県の対馬にカワウソの目撃情報があり、調査の末にフンのDNA解析などから大陸のユーラシアカワウソと同定されたが、これはどうも朝鮮半島から海を越えて移動してきたものらしい。

捕まえたザリガニを落とさないように慎重に‥

きっと対馬海峡を渡る際にたくさんのカワウソが命を無駄に落としているはずで、それは多分現在も続いていて。
自ら対馬を目指したカワウソもいれば、嵐に飲み込まれて偶然流されたカワウソもいて、対馬に流れ着いたもの以外にも他の地域に流れ着いたものもいる‥かもしれないのは想像に難くなく。

ぬるん!と上陸。

発見されたカワウソがどのような経験をし、どのように定着したかは彼らに聞いてみる他はないのだが。
そうやって古来から広がっては消え、弱い波のようにいろいろないきものは定着と分布を広げていったに違いない。
件は、いかにも親水性の高いカワウソっぽい行動のように思えたが、同時にいきものの生命の浪費と、水面に石を投げた時のような生命の波紋の伝播を思い、僕は胸が高鳴った。

巣穴だろうか?しきりに辺りを窺う。

と、ここまでは自然状態での生物分布のお話だったが、この他にも人為的な方法で分布と定着を果たした胴長が北海道には居る。
北アメリカが原産のミンクだ。
これまで、この連載では北海道の本来の自然環境といきものにこだわり、外来種を避けてきたが、実は北海道には人為的な移入種も多い。
ミンクは良質な毛皮の素材として古くから養殖技術が確立され、北海道でも盛んに養殖された。

 

 

多分に扱いやすい性格でもあったのだろう。
僕の郷里の近くでは毛皮商が多くあり、みやげ物屋に入ると積まれた毛皮の原皮や、ハンガーにかけられた毛皮のコートやキーホルダーを多く見かけた。
なめし業も盛んだったが、化学繊維の発達した今ではいずれも衰退し、毛皮は店の端の方で細々と取り扱われているか、ホコリをかぶっている。

狩り以外にも、暑い日は楽しみとしてよく泳ぐ。

罠師が仕掛けたのであろう、そのまま忘れ去られたらしい古ぼけたワナを、深い森を何日も彷徨っている時に見つけたこともあった。
水辺だったので、もしかしたらカワウソを狙ったものだったのかもしれないし、沢に橋渡しになった倒木の上(冬によく使われる猟法)を渡るテンを狙ったものだったのかもしれない。
そんな、毛皮生産が盛んだった頃の痕跡を今でも時々目にすることがある。

 

 

ミンクは現在では商業的にも価値をなくし、放逐され、野生化し、普遍的になっている。
しかし、少なくとも僕が生まれる直前くらいの時代には、毛皮に価値があった事と、野生化したものは優秀なハンターでなければ追いかけられない希少性から、ずっと僕の興味の対象だった動物だ。

「魚がいるぞ‥」

なんとなくその姿を、在来種を追っている傍らで気にかけてきた。
クマを追っている時にもよくその姿を見かけたし、好奇心の強い性格からネコのような仕草を見せ、うまく距離を詰めるとお互いをからかってしばらく一緒に遊ぶ事もできる。
彼らとの付き合いも随分時間が経ったが、最近ではミンクを眺めていると絶滅したニホンカワウソの生活を幻視しているような気がしてはっとしたり、原産地である北アメリカでの彼らの生活にも思いを馳せずにはいられない。
しかし、例えばサハリン(旧・樺太)には未だ絶滅した北海道のカワウソと遺伝子的に差異のないカワウソが居るらしく、遠い将来に対馬のような出来事があるかもしれないし、本来の自然の復旧としてカワウソの人為的な再導入もあるかもしれない。

脳裏を巡るニホンカワウソ、北アメリカでのミンクの暮らし‥

一つの自然に対する生物の生息可能な数量、というものがある。
そう考えるとやはり外来種は許容が難しく、本格的な駆除の判断がミンクにも何れは下されるだろう。
それが何であれ、自然の人的な改変は非常に罪深く、商業としても個人としても安易な放流や放逐、生物の取り引き等は厳に慎むべきと思う。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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