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Vol.88 とりとめのない、うんこのお話。

2018.10.17

先にお伝えをしますが、今回は画像にショッキングなものが含まれているので苦手な方は読み進むのを避けてください。
率直に言いますとサナダムシが写っていまして、内容はとりとめのないうんこのお話です。
僕自身、撮っている時は楽しくカメラを構えていまして、帰ったらきしめんでも食べようとノリノリでしたが、家に帰って改めて写真を見返しましたら「おえっ‥」と思いました。
くれぐれも苦手な方は読まないでください、とは前置きをしていますが読み終わってしまえば何てことはないのかもしれません。
自然の世界での真実なので、この先は興味のある方でどうぞ。

ストロボ光にマスを食べるクマが浮き上がった。

 一年を通して野生動物は色々な食性を見せ、人間も含んだ動物の様々な食性は環境の多様性とも言える。
食べることは生きることであり、豊かであることはうんこが沢山、ということでもある。
様々なうんこがあり、鹿のようなポロポロもあれば、テンやミンクのように小指大を岩になすりつけるものもいて、キツネはイヌ的なぽろっとうんこ。
鹿のうんこは植物繊維だけ、キツネは雑食性のくせに消化が良すぎるのか残存物があまりないのでイマイチつまらない。
テンやミンクはちびっとではあるが未消化物はあり、タヌキは溜糞(ためふん)といって一ヶ所に一族が集中的に、大量にうんこをするので観察も楽しい。
こういったうんこにコクワやヤマブドウなどのフルーツが含まれているのを見ると、フルーツを食べる動物のしぐさまでを想像できて僕は嬉しくなってしまう。

ヤマブドウの実のなり具合を見定める。

ちょっと話は違うけど、女性が赤やそれに近い系統の色を好むのは、原始に木の実を獲得した時の喜びが本能として残っているからだそうだし、僕の想像の中では性別に関係なく、フルーツを囲む人たちは笑顔のような気がする。
それとほとんど同じことを、僕は動物にも当てはめていて、生まれて初めて口をつけたサクランボの実の酸味にタヌキの子供は驚きと戸惑を感じつつ、美味しそうに次の実を求めていたし、クマはコクワの実をヤマブドウやドングリとは別格に(コクワはキュウイフルーツの原種で甘さと香りが強く、ヤマブドウほど数は多くなく、クマやテンは執着を見せる)扱っているようにも感じている。

ブドウの色素が染みた未消化のナナカマドやヤマブドウ、コクワの実が宝石のよう。

動物のうんこを観察するのを好きな僕は、当然数々のうんこを見ているし、その度に棒でつついて分解もし、時には家へ持って帰る。
ドングリだけを食べているクマのうんこは白く、ナッツを裏漉ししたおはぎのような滑らかさがあり、時には紫色がほんのり染め混じるのはヤマブドウを食べた際のアントシアニン色素だろう。
大体は外側が黒いのだが、これは植物質の灰汁が酸化したもので、黄土色のうんこは動物性たんぱく質を多量に食べているものと思われる。
数々のうんこを見てきたが、動物のうんこは人間のものと比べると全く臭いがないので、特筆すべき不快感や(くさい!的な)驚き(超くさい!!!といった)を感じた事はない。
しかし自分の顔よりもずっと大きい、巨大すぎるクマのうんこに驚いた事はある。

ドングリと動物性タンパク質が絶妙に混ざったクマのうんこからヒモ状のものが‥

ただし、今回のものは過去のどれとも違った。
うんこの中に長いモノを見かけ「おお‥」と感嘆し、掘り下(うんこを)げて「おおおっ!」と驚愕し、それがかなり長いモノである事を理解し、棒で持ち上げてみて「おおおおおっ!」と寄生虫の確認と発見をした際には喜びに近い気持ちも無くはなかったが、自身もクマと同じ寄生される生物としての恐怖心がじわじわと湧き上がってくる。
うんこを棒でほじくりながらガイド中にもかかわらず、お連れのお客様を差し置いて推測の無限ループが始まる。

切れ目なく1メートルは優にあるだろう。

「これはきっとサナダムシ、というものだろう‥」「真田紐が名前の由来、とは聞いているが本当によく似ていてきしめんのようだ‥」「サナダムシの感染経路はサケやサクラマスの生食だったような‥」
「確かサナダムシは日本海裂頭条虫という名前だったような気がする‥という事は可川由来ではないのか?‥」「マスが感染源で秋サケでは検出が無い、というのはどういう事だろう‥(一般的にサケの生食は-20℃での48時間冷凍で可食、と言われているがこれはほとんどでアニサキス対処で、後で調べたらサナダムシにも有効だという)」
「知床ではサクラマスを捕食するのは生息数的に難しいだろうから、カラフトマスが感染源か?」「オペラ歌手のマリア・カラスが感染して痩せたとかナントカだったっけ?‥」などなど湧いては消え。
ともかく、アニサキス(有害)やサケジラミ(無害)、マスウキブクロセンチュウ(無害)、くらいの小さな魚類寄生虫しか見た事がない僕にとって、哺乳類や人体にも寄生する本格的?な寄生虫はそれなりの衝撃であった。

「条虫」の名前の由来。それぞれの一条(節)が再生の可能性を持っているとか。
途中で切れて体内に残してしまうと再生するらしい。
ちなみに、サナダムシの卵をそのまま人が飲んでも感染はしない。

ざっと思いつく事は、以前にそのままどこかで読んだ事ばかりだったが、帰宅し、調べてみるとなかなか興味深い記述もある。
秋サケ(成熟した白鮭)ではサナダムシの幼虫が検出された事はないが、トキシラズ(未成熟の白鮭)からは見つかっているらしい。
何かの必殺技の(日本海裂頭条虫!!)ような名前から察するに、長い間日本海を回遊するサケ類に寄生するのだろうか?などと考えてしまうと、シロザケとカラフトマスの海域回遊や滞在日数の幅なども気になってしまい、思索が止まらない。
しかも、サナダムシは長く平たい特徴を持った寄生虫の総称で、牛や豚にも寄生するものがいるらしいので、写真のフンの持ち主はエゾシカを捕食した結果の感染も考えられる。 などなど、調べていたら僕の疑問をかなり解消してくれる記述が見つかった。

 

 

以下は感染免疫学者の藤田紘一郎さんがお答えになっている新聞記事からの引用と要約。
○ 人の腸内ではサナダムシは1日に20センチ成長する。一ヶ月で6メートル、2ヶ月でその倍で成長が落ち着く。
○ 人の腸内でサナダムシは1日200万個の産卵をするが、人体内での繁殖はできないので無害、無症状(稀に脳への寄生があり、この場合は症状があるというが多分違う種類の条虫)。
○ 無症状だが痩せたり、貧血などを起こす事もある。
○ 卵を含んだ糞便が河川へ流出し、ミジンコを介して魚類の稚魚へ移行し、育ち、食物連鎖に加わる。
○ 日本では上下水道が発達し、上記のサナダムシの生活環が断たれている事から、日本海側の高緯度の地方の外国が現在の発生源である可能性が推測される。
そういえば、トキシラズはアムール川へ戻る途中の若いサケだったような?

河口に残されたクマのうんこ、をできる限り美しく撮ってみる。

「このうんこの持ち主のクマは、太れず痩せているかもしれないですね」とお客様と冗談で話していたのだが、もしかしたらサナダムシを排出した事で元気になったのかもしれない。
ともかく「サナダムシは排出してしまえば終わり」という事なので初めて見た時の恐ろしい印象は幾分弱まった。
知床の川へカラフトマスが遡上しておよそ2ヶ月弱、今はそれも終わりを迎えつつある。
自然環境とサナダムシの成長と状態から見たら、そこに何ら矛盾はない。

少し前の季節だけれどエゾタヌキの溜め糞、もできる限り美しく撮ってみた。
中央に近い部分はカビが見えるが、カビが生えてしまうとそこに植物は発芽しないので発芽は正に運次第。
端々にはセミの殻が確認でき、食べたものがうかがえ、食し、排出した木の実の種は芽吹き、新たな森を作り始めている。

冬に向けてカロリーを蓄えるクマの習性上、寄生虫にとって相手に不足はないはず。
上前をはねれるだけはねたとしても、外見上にわかるほど痩せるかどうか?
もし、ここ数日に付近で痩せたクマを見かけたら、可能な限り報告をするので続報をお待ちいただきたい。
とは言っても、今年はドングリが久しぶりの豊作。
たくさんのドングリがすぐにクマを太らせてしまうので、僕が痩せたクマを見かける可能性はほぼ無いと思うけど。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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