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Vol.77 モクズガニ、魚神と川神の仲介者。

2017.11.12

 ニュースでご存知の方も多いと思うが、サケが全然いない。
羅臼の市場ではオスの浜値が最初1,200円だったのが、一週間毎に100円ずつ上昇している。
抱卵しているメスは全く姿を見ないが、2,000円程度との噂だ。

海から源流域にまで遡上し、生息するモクズガニ。

普通の4キロ程度のサケをもし買えば、ほとんどの高級魚が買える値段になってしまう。
昨年は1キロ4,000円だった卵はなんと、1キロ10,000円。
もちろんずっと割高だけど、これでは感覚的にキャビアと変わらない。

河口に集結するサケ群のヒレが幾つも水面に揺れる。

 どこにもサケはいないが、人工孵化・放流河川には少ない数が遡上をしている。
そのせいで、密猟者が全道的に暗躍していて、サケのイケスから大量に盗む例が後を絶たず、ヒグマも、河口にあるサケの捕獲場に連日侵入し、その度に追い払われている。
保護管理をしている知床財団は連日、空砲やゴム弾での追い払いをしているが、人手が足らず、孵化場の職員が自分でクマの追い払いをしている始末だ。
なぜクマを追い払うのか? というと、せっかく河口に入ったサケがクマに追われるせいで、サケが海へ戻ってしまうし、海で待機しているサケもクマを警戒して川へ遡上してこないからだ。

遡上するサケ

サケ資源は現在、孵化場毎に独立採算制が取られている。
事業的に必要なサケが回帰する量を見込んで放流するので、それに見合った採卵と孵化を目指さなくてはいけず、ノルマがある。
サケの遡上量が少ないので、現時点で全くノルマに達しておらず、目標値に到達しなければ地域漁業にとって死活問題なので、関係者は焦っている。
そのうえ、孵化場には管理人のご家族が住まわれていて、単純に安全面の問題もある。

 

 

その状況下で、先日、一頭のクマを撃ち殺して駆除をした。
普通「無害な」ほとんどのクマは人里には近づかない。
イケスにまで手を伸ばし始めたクマは将来、民家を襲うようになるので仕方がない措置だったのだが。

サケの産卵床に佇むモクズガニ。

その後、「なぜクマを殺すのか?」といった抗議や「かわいそう」に準じた愚かな意見が、いつもどおりに散見されたが、これが見当外れだというのは上の理由からもわかると思う。
その土地に住まない、事情を全く知らない人間が「クマがかわいそうだからひどいことをするな」と適当ないいがかりを執拗につけ、知床財団や住民を貶めようとするので、地域は常に緊張し、困惑をさせられている。

源流ではサクラマスが朽ちていた。
サクラマスや、大量に遡上して果ててゆくシシャモも全て、モクズガニの大事な食事になる。

 人工放流でも、自然孵化でも、共にサケ資源は減少を続けているわけだが、溢れるほどに泳いでいたサケがいなくなってしまったのは、主に温暖化が理由で、浜値と気温の推移を見ても、その関連性がうかがえる。

サクラマスを食べるモクズガニ。

5年前のサケ価格は浜値でオスが300円、メスが700円程度で、そこからサケ価格は上がり続けて(サケが減少して)いるし、北海道の平均気温グラフも右肩上がりだ。 数字的には、北海道からサケがいなくなるのは時間の問題だろう。

アイヌ語では「アムパヤヤ(爪を持つものの意)」と呼ばれ、網にサケが獲れない時には
「サケが採れるまで川へは帰さない、帰りたいならサケを呼べ」と、おまじないをしてヤナギの木に吊るした。 
サケが採れた暁には、お礼に御幣をつけて川に帰すのだという。

遡上したサケが川で息絶え、腐敗した栄養分が森や海を育てている‥と日本において常識として認知され、30年ほどが経ったが、教科書的な情報だけでは実感が湧きにくいように思う。
トドやアザラシ、シャチだってサケを食べているし、ワシやクマもサケを待っている。
川ではエビや、ウグイ、カジカ、モクズガニ、マス類の稚魚だって静かにサケを待っている。

サケの遡上がピークを終え、シシャモが遡上する晩秋は雨と雪が交互に降りがちになる。
栄養を溜め込んだモクズガニは、荒れた流れと共に川を下り、抱卵したお腹から幼生を海へ放出し、命を紡いでゆく。

森がサケの栄養分を使わずに育てば、土からもサケの匂いはなくなり、諸々の生物からもサケ(土地)の匂いは消え失せ、少ないサケは故郷の匂いがわからず、広い海をさ迷うに違いない。
サケで育つモクズガニや他のいきものがいなくなってしまえば、幾ら放流しようともサケ自身もいなくなるのだ。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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