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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.18 ヒグマ

2012.12.6

ひょうひょうと冷たい北風が、森の木の葉を全て落とし吹き抜けた。

ヤマブドウあるかな?

植物は枯れ、鮮やかな紅葉から茶黒へと地味な山肌へ変り、見通しが利きがらんどうになった山野は静まりかえって寂しく感じる。
そういえばいつのまにか虫やカエル、ヘビの姿も見掛けなくなった。
すでに落ち葉や土中に眠りについたのだろう。

冷気が流れる森に雪が降ってきた。

一方で、けものたちは厳しい季節を迎えるにあたって食べ物の探索と移動、食べて食べて寝る、をくり返す。

この時期、森の土は凍って固い。
霜が付き、ぱりぱりと砕ける落ち葉を分け丁寧にどんぐりを探す。 

今年はどんぐりが大豊作で、どのけものもかなり肉付きがいい。
エゾシカもヒグマもばりぼり間断なくどんぐりを食べ続ける。
どんぐりの熱量は100gで250kcal。
一粒25kcal…。

山の中の聖域にも冬が降りてくる。

ちなみに人間は250kcalを摂取した場合、30分程度マラソンしなければ燃焼できない。
あまりの食べっぷりに「糖尿病とかにはならないのかい?」と戯れに大声で彼らに話しかけてみるが、 もちろん返答はなく僕を横目に食べ続けるか、驚き大慌てで走り去るかのどちらかだ。

アイヌの慣習では猟で得た獲物は、「捕えた」のではなく矢や鉄砲に当たってくれた「人と接点をもってくれた」という感覚だ。
神(獲物)が獣皮や魚皮をかぶり人間界へ訪れ、衣食住を豊かにしてくれる。
こうしてもたらされた恵みへの礼を尽くし、踊りを舞い、お供え物をし、神々を楽しませ、神の郷里へお土産を持たせて送り返す。
自分の世界へ帰った神はお土産を神々へ配り、人の世界がいかに楽しかったかを伝え、他の神を誘い再び人間世界へ来訪するのだという。
ここは狩猟先での送り場で、その送り儀式を先住民の言葉でオプニレと呼ぶ。
ハンティングキャンプの場所も兼ねた、ヒトと山の神との契約の遺構。

山の中には干せたヤマブドウがあちこちに残っている。
ヒグマはあまーいコクワは大好きだが、数が多くすっぱいヤマブドウに関しては食い飽きる‥という傾向があるように思う(まずいわけではない)。

クマタカ。がらんどうになった森の奥から射る視線。

ヤマブドウの抗酸化物質(持久力や老化の抑制に作用)はブルーベリーの2倍、カリウム(電解物質。神経伝達、心臓など内臓の動作に作用)はリンゴの3倍、 カルシウムが市販のブドウの5倍。

北向きの斜面にヒグマの冬眠穴を見つけた。
クマの活動は12月の末くらいまで続く。
この穴にクマが入るのかどうかまだ不明だが、立ち寄ってはいるらしく生臭い臭いが漂っていた。

(飽きる)という感覚は大事な身体反応で、それ以上食べる意味はないよといった身体の内部からのお知らせだ。
こうしてどんぐりやクルミ(脂質)の摂取に集中していく。
有り余る食べ物は、いきものの生活が満ち足りている事を裏付けている。
いきものを生かすための、自己を繁栄させるための、けものと種子との契約が今年も無事に更新された。

サハリンからアムール川にかけて生活する先住民ニブフはクマを「森の人」と呼ぶ。
ニブフの考えでは、森の社会と人の世界を結ぶ境界はクマの冬眠穴で、森の人は穴を通るときに毛皮をかぶりクマの姿で人間界に出てくるらしい。
森の人は穴の向こう側で人と同じ生活を送っているのだとか。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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