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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.20 冬の一日

2013.2.4

夏季は湖のように穏やかなオホーツク海が、季節の終わり頃から荒れた表情を見せ始める。
冬が訪れその荒れ方が狂乱の状態に達したある日、強烈な北風は海上上空からの吹雪をもたらし、凍結したアムール川の結晶を半島の海岸に吹き進める。

 

 

まともに立っていられない風の中、姿勢を低くし海岸線を歩く。
海から吹き付ける雪が、硬いつぶてとなって皮膚の露出を襲う。
顔の半分をマフラーで覆い、ニット帽との隙間から見える世界にいきものの姿は無い。

 

 

野生のいきものにとって悪天候下での行動にはほとんど利点がない。
風は捕食者や被捕食者にとって大事な情報の音や匂いをさえぎってしまい、行動する上での判断材料が少なくなる。
何より低温と強風の中では生活や行動の手順を間違えると、すぐに深刻なダメージを身体に負ってしまう。

 

 

仮に強風の中の僕がこの状態で数日間過ごさなければならないとして、顔を覆うマフラーを失ったり、なにかしらの理由で長時間皮膚の一部を冷気にさらした場合、それなりに体力を消耗するだろう。
たかが布切れだが、その使い方で随分結果は変わってくる。

美しい毛並みのキツネが連れ添って現れた。

この時期から落命する鹿が増え、一方で命をつなぐものもいる。

冬期が全ての季節を通じて一番困難な時期なのは、それぞれのいきものの眼を伺えば明白だ。
研ぎ澄まされ、凛々しく、美しい。

弔いの日、葬送を執り行う漆黒の僧侶達が魂を来世へ導く。 

悪天候下、休息と耐久の相反する日々を過ごした動物たちは空腹感を満たすため食料の探索に出掛ける。
一方で死にゆく者は最後まで死を認識せず、段々と離れゆく身体の制御と意識に不思議を感じながら絶命してゆく。

 

 

あちこちでくり返される清潔な美しさ。

 

 

風の強さに余韻を残しつつも青空が見え好天を兆したある日、最初の流氷群が接岸した。

消耗し、死にゆく鹿を待つカラス。
鹿は力を振り絞るが大地に逆らえない。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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