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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.22 暖かな日

2013.4.4

毎日0度を超えることがなかった気温が5度を超えるようになり、山頂から海岸線までを覆い尽くしていた雪が見る間に溶けはじめる。
海を埋めていた流氷はある日を境に崩れ、散開し、知床半島の突端へ向かった。

波にもまれぶつかり合い丸くなった流氷、オホーツクの春。

知床岬から延びる、オホーツク海を環状に取り囲む諸島からこぼれ落ち、太平洋へと流れ込んだアムール河の偶像は根室半島沖まで流れ消滅する。
気温、水温、気圧配置が劇的に変化し知床半島に春が訪れる。

冬眠から覚めたクマが陽光に暖められ、うっとりしていた。

終わってしまったばかりの冬が名残惜しい。
厳冬期の肌に突き刺さるような冷気、吹き荒れる吹雪、無意識に背筋が真っすぐになるような緊張の連日が愛しい。
冬は短いが、その毎日は濃密に過ぎる。

彼は近くに鹿を埋めて隠していて、時々掘り起こしては食べている。 

いつも冬から春への間の季節が苦手で、少し感傷的になる。
仮に冬が何ヶ月、何年あったとしてもおそらくはいつだって時間は短く、過ぎてしまったものは戻っては来ないのだが。
時間の経過いっぱいに集中し、無心になる。
そんな季節が、あと幾つ、幾年あるだろう?(80才まで生きたとしてもあと40回ほどしかないからね)。

食料を埋めている土まんじゅうに寝そべり大事に守るが‥。

そんな事を考えながら、けものたちの様子を観察していると、眠くなってきた。
恥ずかしい話だが、僕は撮影中よく眠る。

お客さんが頻繁にやってくる。
(どうもです、こちらこそいつもどうも)互いに緊張感の抜けないご挨拶。

以前はカフェインの錠剤等を飲み、シャッタ-チャンスに備えたものだが、経験上、心身をあまり追い込むのは良くないと判ってきた。
追い込み過ぎると撮影のモチベーションが持たなくなる。

(  !  )

動物が寝てしまったり姿を一時的に消してしまうと、つられて僕も眠ってしまうのだが、それでいて不思議と被写体が現れると目がさめる。
これではクマと一緒だな、と苦笑する。

便宜者のキツネが、おこぼれを期待してやってきた。

ヒグマは冬眠していた、とはいえ完全に寝ているわけではないし、人間でいえば引きこもりに近い状態なのだが、厳しい生活だったろう。
冬眠前後では体重が50キロほども違うことがあるらしい。
冬を耐えた身体をゆっくり癒して準備し、これからの季節を迎える。

それぞれの客に気を許しているわけではないが、かといって強く排除もしないし、嫌がっているようには見えない。
客の来訪を一日の生活に変化をつけるイベントとして楽しんでいるフシさえある。
どういった会話がなされているか判らないが、僕らの毎日と何も変わりはない。

僕も冬が終わると、かなり体重が落ちベルトの穴が数個ダウンする。
逡巡し、回復する。
春がはじまる。
モラトリアムの期間を過ごし、同じ内容が二度とはない時間の流れに再び臨む。

潮流にのって散りゆく氷、そして来冬に再び巡る低温と水の循環。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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