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Vol.23 エゾアカガエル

2013.5.10

僕には特別な場所があった。

エゾアカガエルは氷河期の生き残りで寒さに強く、凍結の恐れがなければ行動できる。

年に一度だけ大きなカエルがたくさん集まり、それがエゾアカガエルであるのを学習した祖父の営んでいるヤマメの養殖場だ。
僕の自宅からは15キロほど離れていて大人になればそう大した距離ではないと判るが、子供にとっては気の遠くなるような異世界だった。
その滅多に行けない場所へ、春の田植えの時期は家族で作業を手伝いに行く。
そこで文字通り野放しになる僕は、養魚場や周囲を流れるきらきらとした清流を探検する。

集うたくさんの眼。奥の森には雪が見え気温は低い。

振り返れば危険もいくつかあった。
養魚場周辺はマムシの巣窟だった。
祖父がよくマムシを捕らえて焼酎につけ込んでいたが、そんなものも僕には宝物に見えていた。

魅力的なマドンナ(一番下)と奪い合うオス達。

養殖池のヤマメが白いものをくわえて泳いでいる。
ぼろぼろになったアカガエルだ。
それをたくさんのヤマメが我勝ちに奪い合い食べている。
池は1mほどの深さ。
透き通った水底に、人影におびえたカエルが潜み張り付いている。
茂みや障害物の無いコンクリートの池ではカエルの姿が丸見えだ。
タモ網ですくいバケツに入れる。

個体差かもしれないが、産卵期のメスは赤色が強いようだ。

僕が育った道南地域では身近なカエルといえばアマガエルで、アマガエルはいくら頑張っても4センチ程度の大きさにしかならない。
エゾアカガエルは最大で8センチ程になる大きなカエルだ。
山地に棲むカエルなので自宅や学校周辺の市街地では見かけることはなかったが、春先の産卵期だけは町外れの田んぼや沼で時々出会う。

忍び寄るライバルを蹴散らすのはオスの仕事。
カエルキック!

手強い相手だ。
素早くジャンプ力が高い上に警戒心が強く、深い水中に潜ったが最後二度と姿を見せない。
姿を消した後は卵塊の中や水中のヤブに潜んでいるのだが、子供にそんな見当がつくはずもないし捕まえられない。
穏やかなアマガエルとは格がちがうのだ。

水底に隠れる。

(誰かがつかまえたものよりも大きなものを獲りたい)
そんな単純な衝動を男児達は全開にして授業の合間の休み時間、妄想と想像をふくらまして風のそよぐ青い草むらを競って探索した。

こっそりと周囲をうかがう。

それが、「僕の特別な場所」では簡単にたくさん獲れてしまう。
大人になった今、自分がやった事とはいえ考えただけで少し寒気を感じるのだが、これを「数十匹」捕まえスナックやアーモンドが入っている大きなナッツ缶(知ってます?)に詰めて学校に持っていきました‥。 学校にザリガニとかのいきものを持っていくのは普通の事だったけど、当時の僕はその数量を少し間違えていたように思う。

オスは身体の割に腕が太く、指にある突起でがっちりとメスを抱く。
強く抱き過ぎてメスが死んでしまうことも。

はてさて、授業が始まり教室が静まりかえると、カエルの大合唱が僕の教室を震源に学校中に響いた。
産卵期のエゾアカガエルは海鳥のウミネコよりも高く澄んだ声でニャニャアと鳴く。
それが缶のなかで一斉に響くのは凄まじい威力だ。
カエルが鳴くたびに皆笑ってしまうので、授業を中断して外に缶を置いてきたけど、それでも大音量で聞こえていた。

いのちのはじまり。

予想外の騒動に僕自身も驚いたけれど、それにしてもきれいで力強い声だった。
ニャニャア、ニャニャア、ニャニャア‥

 

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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