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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.34 冬の終りと蠢動と

2014.4.7

 暫くの間、海面を覆っていた流氷原が美しい夕陽に彩られたその翌日に、四方からヒビ割れ、離散していく。 不思議と、季節の終りの様相は毎年似たような行程だ。 知床の冬が去っていく。

 夕陽に染まる、流氷原を見渡す丘にエゾシカの遺骸。前半の降雪が少なく、いつもよりは顔色の良い鹿が多いが、やはり落命するも のはいる。

 今年の冬は、つかみ所が無くて戸惑った。
2月の中頃までは雪が少なく、(知床外の地域ではかなり多い場所はある)冬らしくなかった。

氷が割れ、四散を始めた。

あまり寒くもないし、まるで12月がずっと続いている感じ。
仲間内でも「雪降らないねー」なんて言っていた。

凪いだ海、透ける流氷の下。

こういう「妙な年」は動物の行動もいつもとは変わってしまい、追跡や観察の見当を付けづらい。
すっかりリズムを狂わされた僕は、少しイライラしながら日々を過ごした。
北風が吹き、流氷が押し寄せた時には、遅ればせながらの到来を喜んだりもしたが、そこからが大変だった。

カヤックを漕ぎ出すと、アザラシが様子を見に来た。 ( 黒点、アザラシ)

 遅れを取り戻すように1日に180センチもの積雪を記録し、それが2日続く。
2日目の終りには(雪がやまない‥どうなってしまうのだろう)といった焦りと共に恐ろしさを感じた。

知床連山に星々が舞う。

吹雪が覆う半島や、その周辺地は封鎖され孤立し、見る間に建物や車は埋まり、有り余る積雪は除雪能力の限界を超え、町の機能を麻痺させる。
ウトロの人々には、除雪作業や不安感から来る疲れが滲んでいた。
そして、店やコンビニから食材が消え、数日経った頃、青空が見え、通行止めが解除された。

僕の住むウトロは、日の出が連山の向こう側からやってくる。

 短い期間に昼夜を問わず降り続いた雪に困りはしたものの、今年の冬が身体が馴染む前に終わってしまった、という感覚は多分僕だけではないだろう。
キツネも、エゾシカの顔色も良く、ヨロヨロしていない。

 

 

あまりに苛烈だと打ちのめされ悲観し、優しいと物足りなさを感じて侮る、自然はそんなわがままの通じる対象ではない。
しかし、厳しい季節があって春を迎える事に、ある種の達成感を感じるのは事実だ。

氷が割れ、気温が上がり霧が発生する。

動物たちとは話せないのでわからないが、ヒグマも鹿もモモンガもフクロウも、暖かな南国に棲みたいとは多分、思わない。
歴史に裏打ちされた身体が、そんなふうになっている。

暖かな日、ヒグマの親子が冬眠から目覚めていた。

沢山じゃなくていいから、もうちょっと長い時間、さらさらの雪降らないかなぁ。

 春先、ぬるんだ土中の水分を吸い上げ、カエデの木は樹皮の隙間や枝の先から甘いシロップを出す。
カエデの陰でしがみつき、べろべろ樹液をなめる母親と子供、これも勉強。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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