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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.40 森の人、移ろう季節。

2014.10.10

「人‥?」

 

1

 

大きな気配の違和感と共に、ぼけた視界に人らしき影が飛び込んできた。
動物を待ちかまえていた僕は、何かが起こる気配の全くない森の中でいつの間にか眠りこけてしまっていたらしい。
しぶい面持ちをグローブをはめた手のひらでぐしぐしぬぐい、目が覚める。

クマの手にかかり逃げ延びたのか、爪痕が刻まれたカラフトマス。

クマの手にかかり逃げ延びたのか、爪痕が刻まれたカラフトマス。

 今年はサケやマスの遡上が極端に少ない。
道東でのサケマス遡上量はサケよりもカラフトマスが圧倒的に多く、カラフトマスは隔年で豊漁、不漁が入れ替わる。
なので周期的に数の増減はあるわけなのだが、近年はその振れ幅が多い方へシフトしなくなってきていて、以前より少ない、そして更に減った、が連続している。
川の中は寂しいもので、ちらちらと川面に走る魚影が往事を想うと痛々しい。

魚獲りのヘタクソなクマが、例外なく立ち上がるのが可笑しい。

魚獲りのヘタクソなクマが、例外なく立ち上がるのが可笑しい。

立ち尽くしていたクマは、数が少ないせいで効率の悪い魚獲りに苦心していたようだ。
掴まえられないので立ち上がり、魚影を見つめ、どうしようかと思慮を巡らしていたらしい。

ヤマブドウが鈴なりだ。

ヤマブドウが鈴なりだ。

彼はしばらく突っ立ったまま呆然とした後、表情に浮かんだ諦めと同時に歩を四つ足へと戻し、のそり、とヤブに分け入り姿を消した。

雪虫が舞う。

雪虫が舞う。

魚の遡上が少なく思ったように食べられないので、ヒグマは川にはほとんど姿を現さない。
しかし自然はうまく出来ていて、今年はドングリがあきれる程に鈴なりでヤマブドウも沢山ある。
そういえば春先には子連れのクマをかなり多く見掛け、山はまるで保育園のようでもあった。

降雪を告げる虫。

降雪を告げる虫。

ヒグマは着床遅延、という能力をもっていて木の実の収穫が見込めない年であれば受精卵を流してしまう。
今期のドングリやクルミ、ヤマブドウの豊作を彼らは早くから、発情期と交尾は6月~7月なので少なくとも昨年の秋には判っていたのだろう。

知床連山に延びる冷たそうな雲。

知床連山に延びる冷たそうな雲。

 クマが姿を現すまで同じ姿勢で眠りこけていた僕は、体温の低下に思わず寒気を覚え身震いする。
幾つかの白い雪虫が飛び交っているのを見て、最近は随分気温も下がったのだなと実感し、近いうちの降雪を予感した。

翌日、雪化粧が覆った。

翌日、雪化粧が覆った。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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