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Vol.41 立冬、魚を待ちわびて

2014.11.5

 知床でサケやカラフトマスが最後にまともに川へ遡上したのが2011年だった。
しかし「まともに」というだけで当時においても減り続けている感覚ではあった。

降り注ぐ大きな雨粒を集める濁流。

降り注ぐ大きな雨粒を集める濁流。

サケに関して、海での漁獲高は昨年は好調子だったという。
お隣の漁師さんが言うには、所属する組合では8億円を稼いだとウロ覚えに聞いた。
今年は1億ちょっとだか2億だか、とこれまた不正確な数字で申し訳ないのだがともかくそれほどに少ないと言っていた。

何もかもが海へ呑まれていく。

何もかもが海へ呑まれていく。

 漁業的に、サケはある程度保証された魚で実は街路樹のように野生や自然を失くしている。
なぜなら、日本へ回遊するサケのほとんどは人工増殖でまかなわれているからだ。
卵の受精から始まり、遊泳能力が高まる稚魚期まで保護されての放流は結果が出やすい。

晴れ間が見えた翌日、収まらない濁流に海まで押し戻されたサケが流れへ懸命に逆らう。 

晴れ間が見えた翌日、収まらない濁流に海まで押し戻されたサケが流れへ懸命に逆らう。 

 自然は本来、多様な環境、多様な生き方を重層的に包容してきた訳だが、現代のサケは加工に最適な卵の時期までを均一に人為的なコントロールのうえで放流されている。
だから、サケに関しては自然状態の悪化が見えにくいし、気がついた時にはもう手遅れだろう。

天気が落ち着き、少しだけ陽の差す森をエゾヤチネズミが散策を始めた。

天気が落ち着き、少しだけ陽の差す森をエゾヤチネズミが散策を始めた。

 一方のカラフトマスは単価が安い事と、今までは数量的に多かったのであまり人工増殖の対象になってはいない。
人の手がかけられないもう一つの理由は、放流した川に帰ってくる割合が少ない事も関係している。
故郷の川にこだわらない性質は、本来、環境の変化に対応する為のものだったろう。
仮に一つの川が天変地異により駄目になった時は違う河川へ遡上してしまえばいいのだし、駄目になった川が回復した際にはすぐに遡上し海と森をつないで自然の礎になる。

偽装し、潜んでいた僕に気付いて固まったらしい。

偽装し、潜んでいた僕に気付いて固まったらしい。

こういった合理的な性質には種としての革新性が見られ、カラフトマスが比較的新しく出現した種だと言う説は素直にうなずけるものだ。
カラフトマスは水温の高い八月頃には遡上し、卵を生み始めるので10月頃に砂礫へ目をこらすと発眼卵をよく見掛ける。
本来はこのまま卵殻を破り、稚魚になり、砂礫に潜んで春に降海する。

エゾリスの冬支度も再開。

エゾリスの冬支度も再開。

しかし近年は晩秋に大雨が降る事が多く、環境が変わってきたように思う。
知床は狭い土地で河川の流程も短く、強く雨が降ればすぐに鉄砲水の様相だ、川底は洗われてせっかくの卵も稚魚も残されてはいない。
今現在の様子も「増殖河川内」ではサケの遡上が見られるが「非増殖河川内」では全く魚影がなく、近年の経緯を物語っている。

エゾシカ、寒気に響く発情期の雄叫び。 四時頃には太陽が沈み気温もぐっと下がる。

エゾシカ、寒気に響く発情期の雄叫び。
四時頃には太陽が沈み気温もぐっと下がる。

 来年は、それともこれからのいつかは、かつてのように川にマスやサケが溢れる様子を僕は見る事ができるだろうか?。
多分、クマだって、フクロウだって、同じ事を考えているだろう。

寒空の下、潜んでいる僕にやっと気がついたようだ。

寒空の下、潜んでいる僕にやっと気がついたようだ。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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