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Vol.42 水底と森と、迫る冬。

2014.12.4

 「けー けー」 と鉛色の空の下、木の葉がすっかり落ちたうら寂しい森の中にクマゲラの声が響く。
吐く息は白く、すっかり寒くはなったが例年と比べるとさほどでもないし、まだ雪もほとんど降ってはいない。

寒気が勢いを増した日。体を黒鉄のような婚姻色に染め、シシャモが遡上を始める。

寒気が勢いを増した日。体を黒鉄のような婚姻色に染め、シシャモが遡上を始める。

 これを書いている最中、テレビでは寒気が入り込んでいると言っているし、一部では大雪だというニュースも流れているが、昨日までは全道的に例年の35%程度の降雪でスキー場が困っているとも報道されていた。
丁度、季節の変わり目らしい。

森を濡らし、そぼ降る雨と混じる少しの雪の中、もの憂げにエゾフクロウが過ごしていた。

森を濡らし、そぼ降る雨と混じる少しの雪の中、もの憂げにエゾフクロウが過ごしていた。

僕が考える、道東地域での秋から冬への変わり目はシシャモの遡上が始まる12月1日だ。
郷里の道南ではシシャモの遡上は11月の3日くらいが目安だったが、広い北海道の東と南では一ヶ月も季節がずれる。
しかし、この2~3年は道東での遡上が一週間ほど遅れるようになり、12月の6日~7日に遡上し、熟練の漁師でさえも時期を見誤る事がある。

「けーけー」とひときわ騒がしく鳴き、クマゲラが森を移動する僕に遠巻きに付きまとう。

「けーけー」とひときわ騒がしく鳴き、クマゲラが森を移動する僕に遠巻きに付きまとう。

この辺りの海域では今年、ブリやマグロ、シイラが大量に獲れ頻繁にニュースになっていた。
今までもこれらの魚種は少しは獲れていたのだが、量が桁違いに増えている。
一言でいえば、温暖化なのだろう。

クマゲラがつついた穴に詰まるドングリ。

クマゲラがつついた穴に詰まるドングリ。

シシャモに限らずだが身体に強い負荷をかける、海水から淡水への生理的な切り替えをして産卵を果たす遡上には適切なタイミングがあって、もともと無理のある川での生活は数日で終り命を閉じる。
遡上や産卵に適した水温や気温、気象条件の合致は年間ベースで考えるとそれは一瞬にも等しい。

冬に向けての貯蔵はエゾリスの仕事。

冬に向けての貯蔵はエゾリスの仕事。

 地球や自然は人為的な温暖化のズレのバランスを取り、季節の帳尻を合わせてきたが、このまま季節の変わり目がズレ続けると整合性を無くし、季節の適切な変わり目と、世界中で北海道にだけ生息しているシシャモがいずれ消失するだろう。

ヤマブドウの種でいっぱいのヒグマのフン。

ヤマブドウの種でいっぱいのヒグマのフン。

現に、道南でのシシャモの遡上を最後に見たのは何年前だったろうか。
これが、単に数年間に渡っての僕の見落としであればいいのだが。

パキパキと、森を抜け、微かに聞こえる音を辿ると器用に細い枝を伝ってしおれたブドウをクマが食べていた。 

パキパキと、森を抜け、微かに聞こえる音を辿ると器用に細い枝を伝ってしおれたブドウをクマが食べていた。 

 静かに細く降る雨に、少しの雪が混じり周囲を濡らす。
森のあちこちでは、いろいろな生き物が1年の締めくくりと冬を迎える準備に追われている。
人々の世界では、国と国、人と人、選挙や経済が喧噪を極め、たくさんのせめぎ合いにかまびすしいが、森の息づかいは人の目に触れない所でひっそりと淡々と進んでいる。

長い眠りと冬の始まりは近い。

長い眠りと冬の始まりは近い。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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