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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.46 うらうらと過ぎる一日。

2015.4.12

 なんだか、パッとしない冬だった。
流氷は始終結氷することはなく、さらさらの雪もほとんど降らず、星もあまり見えなかった。

 

1

 

極端に少なかった積雪は、2月後半からの週末毎のドカ雪がそれまでの帳尻を合わせるように降り、季節にそぐわない雨も降り、前もって考えていた冬季の撮影プランのほとんどがフイに終わった。
しかし過ぎたことを考えても仕方がないし、最近は毎年似たような事を言っている気もする。
気をとりなおして春を迎えて前を向き、後押しをしてくれるように気温も上がってきた。

三匹が並んで雪壁を登る。

三匹が並んで雪壁を登る。

雪は一旦溶け出すと、一週間くらいの間に目に見えて退いていく。
夜に冷え込んだり、日中は緩んだり、寒暖の差が大きい頃の数日は大小の雪崩がおき、あちこちにあたたかな大気が入り込み、色々ないきものの表情には安堵が漂い、冬に酷使した体を暖かな陽の下で眠り、癒してゆく。

谷と海の中にも陽が差し始めた。

谷と海の中にも陽が差し始めた。

 暖かな光を受け、冷たい風がすっと通り過ぎる崖の上で、僕は幾つかのいきものが動いているのを眺めていた。
三脚に望遠レンズを携えて両目を開け、片方は全景の状況を、片方はファインダーの中の対象を見つめている。
日がな、何気なく過ごすいきものたちの生活はユーモラスであり、興味深く、そして心に響く。

日陰から出て、横になる。

日陰から出て、横になる。

シャッターを押すことよりも、何でもない、こういう時間の方が好きかもしれない。
日々写真を撮っていると、つい「いい写真」を撮る事に腐心してしまうのだが、実はなんでもない対象の観察そのものが一番面白かったりする。

 

5

 

 毎年現れる大きなクマがやってきた。
特に名前はつけていないが「大きなクマ」といえばこいつのことだ。

春は眠たい。

春は眠たい。

「大きなクマ」は雪崩れるかもしれない斜面を少し恐れ、しかし、起きるかもしれないアクシデントを一方で望むようにへっぴりごしで挑戦し、差し出した前足でゆるむ斜面を探りながら楽しそうに通り過ぎて行く。

 

7

 

大きなクマが去った後、三匹が寄せ合いながら散策をしていたエゾタヌキは、短い足を投げ出して日の当たる場所に休んだり、遊んだりしている。
それを見つけた数羽のカラスがやってきてカァカァ、ガァガァと会話を交わす。
そういえば、カラスはそろそろ恋の季節だったな ――。

一日の終わり、寄り添う二頭。

一日の終わり、寄り添う二頭。

そんなことを考えながら、僕の両目は変わらず別々の場所を見つめている。
タヌキがあくびをする、海の青さがきれいだな、春に戻ってくるカモメの声がニャアニャアと響き、いろいろなものが僕の両目と耳と肌を通り過ぎて、真上にあった太陽は、いつのまにか谷からは見えない海に落ちてゆく。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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