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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.49 瑠璃の息づく渓で。

2015.7.11

 「違う! 違うぞ!!」
僕は普段、あまり見る事のないTVドラマの内容に憤っていた。
天皇の料理番というドラマなのだが、正直、見る側を楽しませるための虚構に僕は全く興味がない。
面白いように作れば面白いのは当たり前だからだ。
(ドラマ好きの方、ごめんなさい。ドラマや作り手を馬鹿にしているのではなく、単に僕の嗜好です)

15~20℃の冷涼な環境にのみ生息している。

15~20℃の冷涼な環境にのみ生息している。

情緒も虚構も必要なく事実が大事、という味もそっけもない性分の僕がなぜこの番組を見ていたか?、というと単にザリガニである。
秋山徳蔵さん(劇中・秋山驚蔵)という料理人が海外への渡航が珍しかった明治時代、単身フランスへ渡り、修行を終え日本で宮内庁の料理人になるという物語。
この物語の中で大正天皇の即位式にザリガニのスープが作られた、というくだりがあり、そこがどう描かれるか?が僕の最大の関心事であった。
ザリガニ、と言っても当時の日本には在来種である小さなニホンザリガニしかいない。
しかも遠い北海道にのみに生息している(一部は東北にも生息)。

新緑に映える瑠璃色。

新緑に映える瑠璃色。

これを、どこでどうやって採取し、どのように当時の交通状態で生かして運び、どんな苦労があり、誰がどうやって料理したのか?をどのように描写するのかが見たかった。
しかし、陸軍を動員してザリガニを捕まえ、までは良かったものの、後の詳細は省略され、演出で出てきたのは‥大量のアメリカザリガニであった。
がっくり‥。
考えてみれば、今では希少種のニホンザリガニを大量に殺す演出はできるわけもないのだが、CGなんかでどうにかならないものか‥。
と思っても、沢山のアメリカザリガニを実際に湯掻くシーンなんかもあり、TV的にこれはかなり頑張った演出だとも言える。
要は、僕の見たいところが普通より大きく偏っていただけなのだが。
これに関しては、ザリガニに関する聖書「ザリガニの博物誌/川井唯史 著 東海大学出版会」に詳細が記述されているので興味のある方は読んでみてください。

小雨にツルアジサイが咲き誇る。

小雨にツルアジサイが咲き誇る。

 さて、ザリガニである。
ニホンザリガニと、生息できる環境が随分減ってしまっているということは過去の連載Vol.24で触れた。
そして、少ない生息地の、さらに少数の幾つかの河川には瑠璃色のニホンザリガニが生息している。

 

4

 

瑠璃色個体と赤い個体を掛け合わせたら? 瑠璃色個体同士から交配された子供たちの赤型、瑠璃型の出生比率はどうなのか?沢を歩いている子ザリガニの赤・瑠璃比率はどうなのか?
などなど、クーラーを買い込んで実証実験の準備をしていたら室蘭水族館に先を越されてしまった。
餌や環境ではなく遺伝的に瑠璃色、という結果が出たらしい。

瑠璃型の顔。

瑠璃型の顔。

ニホンザリガニの遺伝子は日高山脈を挟んで東西のタイプに分けられ、西は細かく生息地ごとの遺伝特性が目立ち、東は広範にほぼ単一の遺伝型が見られるという。
東西の型違いの要因は、険しい地形や平坦な地形によって隔離されたり、されなかったりという違いによるもののようだ。
少数が生息する本州の、東北のものは西タイプで北海道のものとほとんど差がなかったといい、これは、北海道と本州が陸続きの時代があったという判断材料の一つでもある。

通常型の顔。

通常型の顔。

僕の、学術とは無縁に経験上のことを言わせて貰えば日高山脈を挟んだ東に、瑠璃色ザリガニは多いような気がする。
出どころの不確かなネットを見れば、瑠璃色の「特異なザリガニ」は1,000匹に1匹‥という情報も載ってはいるが、感覚的には通常型と瑠璃色個体は生息地において半々くらいの感じか、むしろ瑠璃色のものが多い場所もある。
しかし、もちろんザリガニそのものの数が多いわけではないけれど。
遺伝、と証明されているのですでに回答は出ているが、青い形質は突然変異的なものではなく、地域的なもので、古来から青いザリガニが支配的な地域があったといえそうだ。

見上げる瞳に世界はどう映るのか?

見上げる瞳に世界はどう映るのか?

サケやマスの種類が淡水域に卵を産むのは起源が淡水に由来するから、とはどこかで書いたが、ニホンザリガニは淡水中で生涯を過ごす。
しかし、彼らの起源は深海のエビが淡水に進出したのが起源だという。
興味深いのは、世界中のザリガニは三億年以上前、歴史上たった一度の時期に海水から淡水への進出を果たしたらしい、という点だ。
これは地球上にある現在の大陸が全てつながっていた頃にまで遡る。
この時期の淡水と海水の関係に一体何があったのだろう?

近年は集中豪雨なども増えていて、泥の流出などがあったりすると途端にその地域での絶滅を招く。間接的に泥の流出は、沢沿いや山野に人や車の通れる道を過剰に広げ過ぎていることに多くが由来する。

近年は集中豪雨なども増えていて、泥の流出などがあったりすると途端にその地域での絶滅を招く。
間接的に泥の流出は、沢沿いや山野に人や車の通れる道を過剰に広げ過ぎていることに多くが由来する。

 ニホンザリガニは世界中で北海道と東北の一部にしか生息しない。
その世界で唯一の地域の、さらに狭い範囲に瑠璃色のザリガニが息づいている不思議。
  この美しいザリガニをを小銭欲しさに売る盗賊的な輩がいて、こういう行為は激しく非難され、許されるべきではない。
そして、仮にこういったものを買う機会があったとしても買ってはいけない。

脱皮直後の色彩。   体色の薄い、赤みの強い状態へ一時的に変化するが殻皮の硬化と同時に瑠璃色へと戻る。

脱皮直後の色彩。
体色の薄い、赤みの強い状態へ一時的に変化するが殻皮の硬化と同時に瑠璃色へと戻る。

それぞれのいきものは、それぞれの出生地に於いてこそ輝きを増す。
もしあなたがこのいきものを一目見たい、と思ったならばあなたの生涯をもって全力で探し出し、彼の土地へ会いに行けばいい。
それでこそ、あなたの人生もまた瑠璃のザリガニのように輝きを増すのだ。

瑠璃色のザリガニに会える日をずっと待ち望んでいた。   僕の人生でそれが叶うとは正直思っていなかった、というと大袈裟かもしれないが。   この美しいいきものがこれからも永く、ひっそりと北海道に息づくことを願っている。 

瑠璃色のザリガニに会える日をずっと待ち望んでいた。
僕の人生でそれが叶うとは正直思っていなかった、というと大袈裟かもしれないが。
この美しいいきものがこれからも永く、ひっそりと北海道に息づくことを願っている。 

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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