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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.50 聖餐、愛情と記憶。

2015.8.6

 森林を抜け、海を見下ろす断崖へ向かった。
海岸線が近くなるにつれ主にカエデやカシワの木が根付き、覆う樹葉の緑の色彩が明るくなる。

樹葉の隙間から鋭い視線を送るオジロワシ。

樹葉の隙間から鋭い視線を送るオジロワシ。

その明るい樹葉の密集に、違和感のある塊りがあることに気がついた。
「何だ? 蜂の巣?」 としばらく眺めていると、塊りはオジロワシが梢に留まっている姿であった。
オジロワシは警戒心が強く、普通、表情が見える近距離には近づけない。
そのオジロワシが僕への注意を怠り、一点を凝視している。
何だろう?とワシの視線をたどってみるとすぐに合点がいった。

クマは連日、非力なウミウをいいように襲い捕食する。 懸命に脆弱な抵抗を続ける親鳥。 しかしヒグマは執着心が強く、全てを食い尽くすまで訪れるはずだ。

クマは連日、非力なウミウをいいように襲い捕食する。
懸命に脆弱な抵抗を続ける親鳥。
しかしヒグマは執着心が強く、全てを食い尽くすまで訪れるはずだ。

視線の先ではヒグマが崖を降り、ウミウの営巣地を襲っている。
ワシはヒグマのおこぼれを狙い、狙撃手のように遠くから機会を伺っていたのだ。
静かに望遠レンズをワシに向け、立ち木に上体を固定してシャッターを数度押すとワシは我に返ったように、焦り気味に羽ばたいていった。
ワシを見送ったあと、崖をザイルで降り撮影の適地を確保する。
今度は僕が狙撃手のようにヒグマを見つめる番だ。

ある日、母と二頭の子のヒグマの家族がウミウの営巣地にやってきた。 先立って崖を器用に降りる姉と、心配し手を伸ばす弟。

ある日、母と二頭の子のヒグマの家族がウミウの営巣地にやってきた。
先立って崖を器用に降りる姉と、心配し手を伸ばす弟。

あくまで推定だが、子供は姉と弟のような気がする。 弟が甘ったれではあるけれど、関係性と気持ちが見て取れる。

あくまで推定だが、子供は姉と弟のような気がする。
弟が甘ったれではあるけれど、関係性と気持ちが見て取れる。

崖下は100メートルを超える。 弟は降り始めてすぐに恐くなったらしく、身体が止まってしまった。 母親に助けを請い、泣き叫ぶ。 おかーさーん!!!と聞こえてきそうな様子。

崖下は100メートルを超える。
弟は降り始めてすぐに恐くなったらしく、身体が止まってしまった。
母親に助けを請い、泣き叫ぶ。
おかーさーん!!!と聞こえてきそうな様子。

すぐに隣へ降りてきて安心感を与える母親。 細かく手や足の置き場を教え、緊張のクライミングレクチャーが続く。 子供の奮闘とぎこちなさがかわいい。

すぐに隣へ降りてきて安心感を与える母親。
細かく手や足の置き場を教え、緊張のクライミングレクチャーが続く。
子供の奮闘とぎこちなさがかわいい。

この頃、海上にはよくウミウの亡骸を見かけた。 クマに襲われ、力尽き落下したものだったのだろう。

この頃、海上にはよくウミウの亡骸を見かけた。
クマに襲われ、力尽き落下したものだったのだろう。

エゾヤチネズミが古ぼけたドングリを食べていた。 昨秋に落ちたドングリが年を超えて雪の下で山野に残り、しばらくの間いきものの腹を補助的に満たす。 しかし、初夏を超えたあたりから前年のドングリ在庫も尽き始め、ヒグマにとっては厳しく、身の痩せる季節が始まる。その時期に食べられるものを可能な限り食べておくという習性、クマの執着心の強さは自然の理にかなったものだ。 

エゾヤチネズミが古ぼけたドングリを食べていた。
昨秋に落ちたドングリが年を超えて雪の下で山野に残り、しばらくの間いきものの腹を補助的に満たす。
しかし、初夏を超えたあたりから前年のドングリ在庫も尽き始め、ヒグマにとっては厳しく、身の痩せる季節が始まる。
その時期に食べられるものを可能な限り食べておくという習性、クマの執着心の強さは自然の理にかなったものだ。 

アリを食べる瘦せた子グマ。 アリやセミなどの昆虫食では十分な食事量にはならない。 凶暴なエゾアカヤマアリの巣に手を出してしまい、蟻酸と噛み付き攻撃を目に受けて悶絶中。

アリを食べる瘦せた子グマ。
アリやセミなどの昆虫食では十分な食事量にはならない。
凶暴なエゾアカヤマアリの巣に手を出してしまい、蟻酸と噛み付き攻撃を目に受けて悶絶中。

クルマユリの花が開いた。 車状に開く葉列が名前の由来。

クルマユリの花が開いた。
車状に開く葉列が名前の由来。

始まったばかりの夏はあっという間に過ぎ行きてしまう。 ヒグマの家族は解散したあと、愛情に満ちた日々を思い出すことはあるだろうか?

始まったばかりの夏はあっという間に過ぎ行きてしまう。
ヒグマの家族は解散したあと、愛情に満ちた日々を思い出すことはあるだろうか?

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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