日本全国の動物園と水族館をつなぐ情報誌、「どうぶつのくに」「どうぶつえんとすいぞくかん」公式Webサイト

どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.54 冬支度

2015.12.4

 知床は、今年ドングリが全く実らなかった。

1

ニンジンで満たされたヒグマのフン、彼らの厳しい食糧事情がわかる。

25本のミズナラを対象にした調査では昨年は17,000個のドングリが実り、今年は僅か55個。
300倍も差が開いている。
この調査は林野庁が30年近く同一地点での観察を続けているのだが、今年は過去最低の記録だという。
これではドングリに頼っている動物達は簡単に生きていけないし、雪が降った日には、すでに弱り死の影が見えるエゾシカも数頭見かけた。

石から石へ、チョコチョコと飛び移るカワガラス。

石から石へ、チョコチョコと飛び移るカワガラス。

夏から秋にかけてのカラフトマスの遡上も非常に少なかった。
こういう年のヒグマは無い食料を求めてさまようため、移動範囲が大きくなる。
衣食足り‥というのは人間だけではなく動物にも当てはまり、ハラがへった生き物は例外なく気持ちが小さく、寂しくなり、本来避けるはずのリスクを犯す。
しかし知床は狭く、選択肢は限られ、切迫したヒグマはどこへも行き場がない。
そして、食料を得るため無理に行動範囲を広げてしまう。

一気に潜る、広がる尾羽。

一気に潜る、広がる尾羽。

ドングリ以外のブドウやコクワも、早くから食い尽くしてしまっている。
初めて見たが、いつもは食べないキハダの実まで口にしている有様だった。
8月下旬には今年の傾向がはっきりしていたので、僕は早くから年内のヒグマの撮影を打ち切っていた。
奥深い山中で写真を撮ることが多いけれど、些細なことでもクマには障りになるだろうという判断だった。
クマも、クマを見ている僕も、悪い方向へ環境が大きく変わってしまうと不安になり、生活が大きく変わってしまう。

数秒後、イクラをくわえて浮上。

数秒後、イクラをくわえて浮上。

 いつもの事だが、一部の観光客やカメラを持った人たちは無邪気に、ほぼ連日、車道近くに出るヒグマを見かけては執拗に追い回していた。
ひどい時には、緊急で駆けつけるクマを追い払う係官へ、権利を主張したり罵声を浴びせ悪態をつくことさえある。
この状況の中、ヒグマはどこにいっても餌はなく、どこにいっても人がいて、これらを避け続けなければいけなかった。

侵入者を威嚇してボロボロのサケが卵を守っていた。

侵入者を威嚇してボロボロのサケが卵を守っていた。

こうやって行き場を失い、静かな畑にたどり着いたクマが銃弾に倒れるケースが多く、生活負荷の大きい子連れや、3~4歳の経験値の低いクマが多く撃たれるのが象徴的だったように思う。
狩猟で死ぬのではなく、追いやられて、行き場をなくして死んでいる。
農作物であるニンジンやビートで満たされたフンを見るたびに、僕は気持ちが暗くなった。

 

6

 

 雪が降った。
川へ行ってみると、産卵を終えたと思われるボロボロになったサケに混じって新しいサケの小規模な群れ。
この時期になって河への遡上が少し増えているようだ。
二週ほど前、オホーツク海は嵐と大波が洗っていた。
きっと波で海水が掻き混ぜられ、水温が下がって、低温を好むサケが接岸しやすくなったのだろう。
これで、このまま季節外れの大雨や川の増水が無く、卵が無事に育てばサケの自然孵化率が増えるかもしれない。

寒い冬が始まる。

寒い冬が始まる。

サケは少し増えたけれど、食料のない多くのヒグマは早くに冬眠に入ったので残念ながらサケを食べる機会を無くしてしまった。
きっと気温の低い、標高の高い場所へ移動して冬眠しているはず。
けれど、うまく冬を過ごせるかが心配なほど気温が高い。
一方で、心配事の多いヒグマとは対照的にカワガラスはホクホクで、厳しい冬に向け、ごちそうを食べるかのようにせっせと卵をついばんでいる。

 

8

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

カテゴリー

カテゴリー一覧

このカテゴリーの他の記事

ページTOPへ

Copyrights © 2010 Doubutu-no-kuni All Rights Reserved.
誌面、Webにおけるあらゆるコンテンツの無断複写・転載を禁じます。