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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.55 森の道化師、ミヤマカケス。

2016.1.8

 午前の撮影行に一区切りをつけ、いつも遊びに来てくれるカメラマンの方と昼食を食べに道の駅へ入った。
右側一面がガラスの席に座り、外を眺めると、さらさらと雪が降っている。
暫く外を眺め、人の来る気配を感じ、店内へ視線を移すと頼んだ定食が運ばれてきた。
食堂のお姉さんがテーブルに定食を置いた瞬間、反対側から「ゴン」と鈍い音が響いた。
音に反応し、振り向いた首が回り切るより先に目の端に物体をとらえた僕は、周囲を驚かさないようにさっと立ち上がり、出入り口へ向かい、外へ走った。

年明けの初旬くらいまでは、冬でも時折クマを見かける。

年明けの初旬くらいまでは、冬でも時折クマを見かける。

外では色鮮やかなカケスが、地上で弱々しく動いていた。
多分、一面のガラスが透明で認識しづらかったのだろう、滑空してそのまま衝突したらしい。
ただ、カケスの名誉のためにも書いておくが、もしかしたらワシ類に追われ、焦って逃げた結果だったかもしれない。
一方で、食事をとっている僕らをからかおうとしたカケスが、間抜けにもガラスに衝突した可能性もあるし、そういった行動が否定できないだけの強い好奇心の持ち主でもある。
そういえば、ガラスへの衝突音は食事が置かれた瞬間だったか‥。

捕まえたサケを食べるクマ。 川への遡上が遅れたのか、うまそうなサケだった。

捕まえたサケを食べるクマ。
川への遡上が遅れたのか、うまそうなサケだった。

これほどカケスにじっくり触れる機会もそうないので、僕は嬉しい気持ちでいっぱいだった。
しかし、かなり派手な音がしたので無傷も考えづらい‥と独りで集中が始まりそうになって我に返った。
‥僕は食事中だった、中にいる方をお待たせしてはいけない。
さっと考えをまとめ、駐車場の車へ走り、車内へカケスを放り込んだ。

カケスがいち早く来訪する。

カケスがいち早く来訪する。

成鳥は体温が高く、濡れていなければ保温の必要は無い。車内であれば暖かいだろう。
回復するようであれば暫く身近で保護観察できるし、これも滅多にない機会だ。
しかし、かなり派手な音だったので首を折っている可能性もある‥。
店内での食事の最中、悶々とあれこれが頭を巡っていた。

クマが去った後、雪面に凍った血液をついばむカケス。 貴重な塩分と栄養だ。

クマが去った後、雪面に凍った血液をついばむカケス。
貴重な塩分と栄養だ。

 子供の頃、家の軒下に干していたトウキビをかすめ取るカケスを家の中からよく眺めた。
カケスは春から秋の中ごろまでを標高の高い場所で過ごし、晩秋には平地へ降りてくる。
干せたトウキビの実をついばむカケスの背景には、いつも寒々しい鉛色の空が広がり、間もなくの冬の到来を感じたものだ。
何かのヘマをしたり、ドジを踏むと「このカケスめ!」と父に怒鳴られたし、その色彩の鮮やかさからか、派手な美人で男性を惑わすような女性への影口(冗談や逆説の褒め言葉も含む)も周囲の大人は「カケス」と言っていたような気がする。
これらは道南の、東北の文化が入り混じる僕の郷里独特の言葉の使い方かもしれない。

あまりに違うので想像し難いが、カラスとは親戚。

あまりに違うので想像し難いが、カラスとは親戚。

 秋にクマを追っている時にはかなり迷惑な存在で、ずっと僕を付け回し続け、ジャー!ジャー!ジャー!ジャ~!っと野太くカン高い声でクマへ僕の存在を教えてしまう。
そういう時はさっぱりダメで、とぼとぼ帰る羽目になるが、逆にクマの居場所を教えてくれる存在でもあるので、騒々しい声が聞こえたらそこへ向かってみるのも一つの手法だ。
こういう、デタラメに鮮やかで騒々しい性分から世界でも道化師の役割を担っているようで、数々の神話の中にもカケスが度々出てくる。

ガラスにぶつかってきた個体。

ガラスにぶつかってきた個体。

大抵は神様を口先でやりこめたり、神様同士の仲介をしたり、他者にイベントを提供したり、誰も思いもつかないようなことも言って何かしらの事件の転換をもたらしたり。
不思議と悪い意味合いが少なく、どちらかといえば器用で立ち回りのうまい、愛嬌のあるキャラクターとして扱われている。
英語やフランス語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、では共に鳴き声のままの「ジャー!」のアルファベット表記「jayとかGeai」だし、ロシア語では「おしゃべり野郎」の意味合いがあるらしい。
そしてそのどれもが忌み嫌われるのではなく、人生に必要なアクションを起こすキャラクターとして認識されている。

羽毛をかき分けると、目の少し下に大きな耳穴が見える。 聴力も相当良さそうだ。

羽毛をかき分けると、目の少し下に大きな耳穴が見える。
聴力も相当良さそうだ。

 食事を終え車へ戻るとカケスは硬直し、死んでいた。
とすると、くちばしからためらいなく突っ込んだのか?
少し残念な気もしたが、寒い時期だ、遺骸の腐敗も遅いだろう。
後で丁重に弔ってやるとして、数日、家の気温の低い場所へ置き眺め、美しい羽根はもらい受けるとする。

瑠璃羽根に輝く星、命の最後のまたたき。

瑠璃羽根に輝く星、命の最後のまたたき。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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