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Vol.2 ウキゴリ

2011.8.6

お盆の頃、川を遡上してくる黒いモヤモヤがいる。
夏の強い日差しの中、それは、川の岸沿いをざわざわとゆっくり移動してゆく。
「あぁ、ゴリだな」と思うぐらいのもので、何の価値も感じなかったし、ありふれた雑魚のうちの一つだった。

ウキゴリ成魚

水面から見ると実体があるのか無いのか、不思議な光景で、光の加減によっては存在そのものが疑わしい。

石の下に潜むウキゴリ成魚

自分でも説明できないでいるのだが、その生き物の名を僕は最初から知っていた。
名前を誰かに教わった記憶が無いのだ。
僕が知っている身近な生き物の名は、生活の中で覚えていった物が多い。
曖昧な記憶。

流れの速い所では腹ビレを吸盤のように使い、前に進む。

あの魚は何だったのだろう?そう思ったのは近年の事だ。
頭の中に住み着いてしまった「黒いモヤモヤ」が妙に引っ掛かった。

晴天の下の旅

近くの川へ出かけてみると、割と簡単にそれらしきものに出会えたけれどせいぜい数匹だ、それほど大群ではない。
果たしてこれが黒いモヤという程の塊になるのだろうか?。
そんな思いを抱いて2年目、この魚を狙い、ワナを仕掛けている老夫婦にある川で出会った。

ヨシ原を進んでゆく

河原の石を積み上げ、小さな川筋をつくり、その上手に30センチ四方のカゴ状のウライを設置して一日中待つ。
すぐにウライはゴリでいっぱいになるから、その都度生け簀に移す。水温が上昇する午後のほうが多く穫れるのだとか。
パラソルを立てて、河原にたたずむ二人。お盆の間は毎日欠かさず来ているらしい。
捕獲されたゴリは佃煮にされるのだが、これが実に旨い。ふんわりと川苔の味と香りが口の中に広がる。

落差のある流れ込み、手前で一息

その出会いから間もなくして、おじいさんが亡くなったという知らせを聞いた。
ワナを作る人がいなくなり、家で静かに過ごすおばちゃんを想像して心配していたのだけど…。
後日、会いにいったら元気にしていた。
話を聞けば、川筋もウライも、元々おばちゃんが自分で作って楽しんでいたらしいのだ。
「昔は風呂敷で穫ったけどねぇ、随分少なくなった」とか、「去年は一人で行ったけど、大漁だったよぉ」等と元気そうに話していた。

上流への引力に、何を思うのだろう?

正式名称はウキゴリ。
高密度で遡上するウキゴリたちは、その後、数日を過ぎると川の広範囲に拡散し姿を消す。
ゴリ漁も一週間程で終わってしまう。

夏の陽射しが良く似合う

夏の暑い日に水際を横切ってゆく、モヤモヤした怪しい塊には再び出会えたけれど、こうやってゴリのまとまった遡上が観察できる河川は僅かになってしまった。
生き物の気配が満ちていた遠い日の川‥。

ちなみに飼育してみた人の話によると、「ゴダッペ」になるとのこと。
そういえばゴダッペ、最近見なくなったなぁ。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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