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Vol.5 シシャモ

2011.11.4

神の国の庭に柳の木が生えていた。

秋に柳の葉が誤って下界に落ち、アイヌの部落に散った。下界に散った葉は天へ帰りたいと願ったが、 重力に引かれ帰る事が出来ない。下界の木の葉と一緒に朽ちてしまっては哀れだと、神は柳の葉に生命を与え魚に変えてしまう。

メスは海中生活時と変わらず銀白色だが、オスは尻びれが伸び、追い星が出て墨のように黒くなる。   オスに対してメスの数が少なく、多数のオスがメスに追従し、黒い魚群が形成される。   ※追い星/繁殖期に現れる外見上の変化。頭頂部あたりにゴツゴツとした細かいブツブツがある。  

こうしてシシャモは季節になると望郷の念にかられ、川を遡るのだという。

また、別の伝説によれば、食料の魂を柳の葉に封じ、下界に届けるべく舞い降りたのはフクロウ神だという。

 シシャモは日本固有種で、北海道の太平洋沿岸に生息し、太平洋に面した数本の限られた河川に遡上する。  産卵する川が定まっている背景には、それぞれの水系の成立とシシャモの発生、生態の獲得の歴史が深く関わっているものと思われる。

地域によって10月末から11月末の、気温が急激に下がり、よく晴れ渡った日にシシャモの遡上が始まる。

水中で観察していると、群れで定位した真っ黒な魚のカタマリに時々、すれ違うサケがイタズラ半分の威嚇をする。

シマフクロウは-コタンコロカムイ(集落を守る神)とかモシリコロカムイ(大地を守る神)と呼ばれ、先住民の信仰の中では最高位の神だ。 マスに始まり、サケ、そしてシシャモが入れ替わりで遡上する豊かな土地の端で、シマフクロウが人々の生活を見下ろしていたのは想像に難くない。現在、道内に120羽~200程度が生息すると推定されている。

シシャモは散り散りに姿を消し、再び元の位置に戻って来るという具合だ。

過去にはホウキで掃いて穫れるほど大量に遡上していたといい、冬を目前に最後に遡上する魚として保存食にされ、大事にされた。

あらゆる動物たちにも―――すっかり減ってしまったが、シシャモを下界に届けたシマフクロウにとっても――― 厳しい冬を乗り切る体力をつけるための、食料であったことはいうまでもない。

 

 

シシャモの遡上の数日後、必ず雷を伴った大雨が降り、海は荒れ、川は濁流になる。

近年は気象にメリハリがなく、雷も響かず、魚の遡上に勢いもない。 例年、大雨の後にはたくさんの雪が降るのだが、海水温が高いせいで接岸できなかったサケが降雪の中、やっと川を登ったりしている。 サケの漁獲量も大幅に減っていて、ある採卵・孵化場では一日の捕獲量がたったの80匹だという。 何かがおかしい、生き物の周期が狂っている。

一般に安価で売られているものはカナダやノルウェー産で、原料ラベルにはカラフトシシャモとかキャペリンと表記されている。   キャペリンは近縁だがシシャモ属ではなく、一生を海水で過ごす

 

この後、気温はさらに下がり、水中には静寂が訪れる。 産卵を終えたシシャモは息絶え、2齢までのメスは来年の産卵に加わるべく、再び海へ下る。

毎年、降り積もる雪は風景を一変させ、厳しい。しかし、積雪は地下水の源であるし、あらゆる卵と種に休息と春への準備を与える。 やがてくる季節を思い、心から願う。雪降れ野にも、雪降れ町にも。

カモメもシシャモを発見し集まって来た、多くのいきものが心待ちにしている。  しかし、産卵地の環境はダム建設、護岸、河畔林の伐採、河床低下などで悪化し続けていて、将来的なシシャモのサイクルは危ういものがある。

 

撮影協力:高橋宏幸

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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