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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.7 トド

2012.1.16

風雪が吹き付ける荒れた日、パサパサの雪面をカンジキで踏みしめ、凍りつく森を抜ける。
生える木々の間隔を強い気流が入り乱れると、一筋の風に乗って、(ヴォォー)とかすかに音が耳に届く。
トドの声だ。
アイヌ語ではエタシペ、いびきをかくものの意。

 

 

岬の尾根を越え、見下ろすと真っ白な視界の中にかすんで海が広がる。
断崖のへりで、丈夫そうな立ち木にロープを結わえ、自分にも結ぶ。
降下と落下にそなえた命綱だ。

日本に生息する動物としては超重量級。オスが1000キロ、メスが300キロ程度。

ロープを手繰りながら足場を確保し、岩場を見下ろすと、30頭ほどが上陸していた。
周囲には、うなりごえが響いている。

トドの楽園。

狭い岩場に巨体がひしめいていて、肩が触れた、という程度のいさかいが傍目には散発し、その度に吠えている。
深刻な争いには見えないので、彼らにとってはちょっとした会話なのかもしれない。

良い波を待つサーファー2頭。

観察を続けると、彼らの一日が豊かで、満ち足りたものであるのに気づく。
波乗りをして遊んだり、複数で遊泳したり、陸上で吠え(会話?) 合ったり。
母親の上に乗り、甘えた顔で眠りについている子供もいる。

オン、ウェーブ!

視界の悪い吹雪の中で見つめていると、その群落が、人間の集落のようにも思えてくる。
そして、あれは動物だとか、これは人間だとか、自分が複雑な垣根を持っていることが、あいまいになる。
自分は、何かの幻を見ているのではないか、と。

雪面ににじむのはトドの汗、といいたいが、汗かどうかは判らないらしい。他の画像でも赤色が強い個体がいたり、岩場に茶褐色の液体が付着していたりするのだが、やはり皮膚からの分泌物。 

トドは北海道、オホーツク海、ベーリング海、アラスカ湾、カルフォルニアといった 地球上で北半球の太平洋沿いだけに生息していて、北海道へは千島列島やサハリンといった繁殖地から来遊し、 例年11月~5月くらいまで滞留、北海道での来遊総数は7000頭弱と推定されている。

手前の母トドの上に子トドが眠る。

経済面で価値のある魚種、タコ、タラ、ホッケ、イカ、等を食べるので当然人間とは競合するし、 魚が、かかった高価な漁網が破られるといった被害もあり、海のギャング、と形容され、年間120頭前後の駆除が認められている。

北海道の海は過去の漁業乱獲での資源減少を、現在、やっと漁業者の様々な試みを経て、回復に転じさせ始めた漁場が多い。
そして、資源が増えて来た漁場には当然、それをエサにするトドが寄ってくる。

吹雪が止んだ。

トド憎し、になるのはよくわかる。
しかし、トドまでも含めた環境全体の保護と回復をはかっていかなければ、漁業的にも先細りは避けられないだろう。

トドとトドに補食されるいきものと、その周辺環境を思う事は全く矛盾しない。

効率性を求めて邪魔者を排除し、けものも、魚も共に減ったのが、今の海の姿なのだから。

熟睡中

 

今回の連載にあたり、(汗)についておたる水族館へ問い合わせたところ、以下のご回答(要約)をいただきましたので、掲載します。

 

トドの赤い分泌物はアシカ科の他の種類でも見られ、これが汗かどうかは学者によっても主張が違い、  はっきりとしたことは判っていません。皮膚には汗腺も皮脂腺もあり、何らかの分泌物だとはいえそうです。  トドの体を触ったときに手につき、少し粘度がある感触。

  

おたる水族館 角川様 ご協力、ありがとうございました。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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