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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.8 エゾシカ

2012.2.6

降りしきる雪は、地表を覆い隠して静まりかえり、白く美しい。
しかし、野のいきものには過酷な季節だ。

 

 

この時期、海岸沿いやその斜面、平原や、除雪された道路付近で数多くのエゾシカを見かける。
風が吹き付ける場所には雪が堆積しづらく、雪の下の笹や、枯れた植物を掘り当てやすいらしい。

 

冬毛は太く、断面が中空で、体温を維持する能力が高い。

 

秋にたっぷりと食べ、体に栄養を蓄え、冬を迎えると以降は脂肪の続く限り燃焼させ、ひたすらの耐久。
この時期の鹿は、好きでもない木の皮や、栄養のない笹の葉、ニガくて夏には絶対に手を付けないハンゴンソウの枯れ葉も積極的に食べる。
そして、寒さは体力を容赦なく奪ってゆく。
まるで、荒行のようだ。

 

 

エゾシカは一言で表現すると、かわいい。
顔立ちや、スタイリングも、もちろんかわいいが、生き方や存在が愛おしくてたまらない。
クマとは大違いで、意図的にふてぶてしい態度をとったり、本心を隠したりはしない。
彼らは驚くと白い尻の毛を大きく逆立てて、心底ドキドキしている、といった正直な表情を見せる。

 

雪の下の笹を食べる。硬い葉は栄養価が低く、歯を摩耗させ、消化にもカロリーを使う。

 

冬期の習性上、よく崖から落ちて死ぬ。
その、ドジさがかわいい。
とはいっても、より食物のありそうな、困難な足場に踏み込んで落下するので、ただの油断ではないけれど。

 

 

そうやって息絶えた鹿を、オジロワシやオオワシ、カラス、クロテン、キツネ、等が並んで食べ、厳しい冬に一時の御馳走と安息を提供する。
きっと、誰からも感謝されているだろう。
見ている僕も、笑顔になる。

 

ある暖かな日、眼下には流氷原。

 

そんな、かわいいエゾシカだが、現在の世論は鹿に厳しい。
「増えすぎた鹿が森や高山植物、農作物を荒らす」「交通事故の原因になる」といった、迷惑論調のものだ。
そして、鹿が植生を喰い荒らす様を僕も見ている。
皮をはがされた木は枯れ、下草まで食べ尽くした地表は土が露出し、乾燥状態におちいる。
ひどいものだ。

 

 

けれども、幕末に、北海道を探検した松浦武四郎などは、想像を超える鹿の多さに言及した記述を残しているし、 アイヌの生活を題材にした錦絵には沢山の鹿が描かれているものが多い。
過去には鹿が多く生息する時代があったのだ。

 

終わり無き旅。

 

今のエゾシカは一度絶滅しかけたものが、国の保護政策や、毛皮や肉に金銭的な価値が無くなっていく時勢の中で、数十年をかけ、回復してきた。
回復は果たしたが、過去に原野や森林だった場所は、今では宅地や、農耕地になっている事が多い。

増えた鹿を受け入れる自然が無くなってしまった、その上、人が胃袋を満たす為に広げた土地へ、鹿が帰還を果たし…。

今、気がついたが、僕たちが住む星の、あちこちで聞き慣れた報道によく似ている。
そう思うのは、気のせいか。

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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