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Vol.14 クワガタ

2012.8.3

ハルニレ、ミズナラ、ハンノキ、カエデ、コナラ、サワグルミ、ブナ、ホオノキ、いずれも非常に水気を好み、沢筋や水際に根付く木だ。
一見、水性の無い場所に生えていても探せば小川が流れていたり、雪解け水が大量に得られたりと地下の水源に根を伸ばしている。
これらの木々を好んで利用するのが昆虫の王、クワガタだ。
しみ出る樹液に頭を突っ込み一心不乱に舐める。

昆虫を育む森

少し前にクワガタブームが世間を騒がせた事があった。
一匹数十万とか、大袈裟な価格が報じられていたので記憶されている方も多いと思う。
あれはその大きさに対して値が付けられていて、数mm違うと取引額が大きく変わるらしい。

ひと夏の逢瀬。

昆虫は好きだけれど店で買ったり本格的な飼育にあまり興味が無い僕は、耳に入ってくるそれらの情報をうろ覚えに聞き、ただの郷土愛から 「俺の山のミヤマが一番デカイに決まっている」(本当は他人の土地です)と勝手な事を考えていた。
しかし、原稿を書くために調べてみると、国内では本当にオオクワガタを抑えて最も大きくなるのだそうだ。

隅々に命が共鳴する。

子供の頃は、ひと夏に物凄い数のクワガタを捕った。その中に一匹か二匹は別格の大きさのものがいた。
オスの平均は目測で70mm程度、最大は90mmくらいあった。
体長を逐一測っていなかったので正確な記録として成立しないのが悔しいところだ。
こういった大きなミヤマクワガタは体に厚みがあり、手のひらに乗せるとその重量感に思わず笑みが洩れてしまう。

日本刀のようなコクワガタ。

頑張ったらどれぐらいの数が捕れるだろうか?とトライアルもした。
一回の採集行で50匹程度捕れる、それを夏の間朝昼晩…。
子供の頃とはいえ、具体的に数を公表すると非難を受けそうなので控えるけれど凄まじい数を捕獲した。

美しき光の庇護。

夏の終わりには案の定、クワガタの死体が累々と重なり、異臭を放つ水槽のクワガタと腐葉土を鼻をつまみながら畑の脇に捨てた。
そして翌年、思いもかけない事がおこる。
腐葉土を捨てた場所を掘ると、一夏に僕が捕まえた成虫の数を大きく上回って様々な種類のクワガタの幼虫が出て来たのだ。
ただの虫けらが、不思議で素敵な予測のできないギフトをいつも僕に与えてくれていた。

そのころ、オジロワシの子供は青年へと成長し、盛んにジャンプをくり返す。

このクワガタが20年程前から減りだした。
クワガタだけではなく、虫そのものが減っている。
街灯に集まるものも少ないし、樹液に集まるものも少ない。
徐々に減っていったので一時的な事だろうかとも思ったが、半分に減ったものがそのまた半分になり見つけ出すのが難しくなった。

親が持ち運んだエサに食いつく子供、生まれて間もないころの可愛らしさは微塵もない。

本当は樹液に集うカナブンを写真に収めようと出掛けたのだが、少数のミヤマクワガタやヒラタクワガタしか見つけられなかった。
あまり期待をせずシャッターを押したが、出来上がったフィルムを見て周囲の緑を映し込むミヤマの体毛の美しさに気付いたのは福音だった。

たくさん食べて飛ぶ練習だ。

 

翌朝、再び朝もやの中、虫たちの集まる木を目指して沢を歩いた。
クワガタの大きさは森の湿気の多少に左右されるという。
森の深さと沢や川などの水域の多さは比例する、そして森の豊かさと昆虫の生息数も比例する。
全ては共鳴している。

そして‥眠い…。

目の前に広がる広大な世界に胸の高鳴りを覚え、沢の中で立ち止まり、冷たい空気を大きく吸い込んだ。

もうちょっと!

著者プロフィール

八木直哉(やぎ・なおや)

1975年北海道生まれ。
写真家。動物、魚類、鳥類、両生類、昆虫、などを撮影している。
北海道の本来の野生と人の関わりの痕跡が現在のテーマ。
愛用の機材はNikon F5 F100 FM2 D300

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