日本全国の動物園と水族館をつなぐ情報誌、「どうぶつのくに」「どうぶつえんとすいぞくかん」公式Webサイト

どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.31 コシアカキジ

2012.12.25

ダヌムバレーの朝は深い霧に包まれています。風はなく、厚い霧を通してテナガザルの声が響き渡り、小鳥たちの大合唱が聞こえて来ます。

レインフォレストロッジでの滞在中、一日の始まりは朝のトレッキングからです。玄関前に6時集合。グループ毎にガイドが付きます。その時刻になるとすでに明るく、ライトを持つ必要はありません。ところが30分前はまだ暗く、ライトなしでは水たまりに足を踏み入れたり、すぐ脇にいるマメジカに気づくのが遅れたりしてしまいます。

ちょうど、そんな時刻です。バタバタバタと重そうな音をたてて、大きな塊が15メートルもの高さから落ちてきました。「何だろう?」。思うまもなく、同じことが起こりました。同じ木の同じ高さからでした。続いて、さらに1度2度。

地上に降りた数個の黒い塊は、ゆっくり歩き出しました。そして、木の陰が途切れて僅かに明るい場所に出たとき、ようやく、その姿をはっきり確認することが出来ました。それはニワトリに良く似た大きな鳥でした。森の中、地上を歩く大きな鳥、尾は特に長くはない。そうなると、ボルネオではコシアカキジに違いありません。

地上で採餌するメスとオス。

鳥たちは、手入れの行き届いたロッジの庭をゆっくり、しかし休むことなく移動しながら採餌に専念していました。

そのうち、早起きした宿泊客がやって来て、コシアカキジを間近で見たことに感激したり、急いでカメラを取り出したりします。集合時間を気にしながら写真撮影を試みるのですが、近づけば近づくほど、鳥は足早に遠ざかってしまいます。

集合時間ぎりぎりに来る人は、ほとんどこの鳥を見る事が出来ません。その頃になると、周囲の森に入ってしまい、開けた場所には現れないのです。一方、行動範囲はそんなに広くないようで、森の中では同じ群れが、同じ所を何度も行き来しています。私は滞在中、自動カメラを置くことが多いのですが、一番多く写るのがこのコシアカキジです。次がジャワマメジカ。あとは、夜間にボルネオヤマアラシやジャワジャコウネコ、パームシベットなどが写ったりします。

東南アジア熱帯の森林には、セキショクヤケイという野生のニワトリが棲息しています。中国南部からフィリピン、タイ、マレーシアなどに分布しますが、ボルネオ島には本来いない鳥です。外観や色合いは、「地鶏(じどり)」と呼ばれる日本在来のニワトリに似ています。「名古屋コーチン」や「宮崎地鶏」を参考にしてください。ニワトリは家禽ですが、セキショクヤケイが祖先だと考えられています。

オスは腹と腰が赤茶色で、他は濃い青色。

ボルネオ島に分布するキジ科の鳥で、セキショクヤケイに一番近いとされる種類がコシアカキジです。オスで全長60から71センチ、体重1.8から2.6キログラム。メスで全長56から57センチです。オスは全身が濃い青色。腰は赤褐色で和名の「腰赤」、英名の「fireback(火のような背中)」の由来になっています。冠羽が長く伸び、先端が房状になっています。さらに尾羽は薄黄色でふんわり房状になっています。メスは上面が赤褐色、胸部から下面にかけては暗褐色ですが、羽毛の外縁が白いので、白い鱗状に見えます。メスはオスに比べて地味な色合いです。オス、メスともに顔には羽毛が無く、青灰色の皮膚が露出しています。特にオスの場合、この皮膚の部分が垂れて大きくなっています。

コシアカキジは、ミャンマー南部からタイ、マレー半島、スマトラ島に分布。ボルネオでは低地林から山地林低部に広く分布します。

雑食性で、地上や落葉に潜む昆虫、ミミズ、カタツムリやカニ、植物の種子や果実などを食べています。6から7月が繁殖期で、抱卵期間は約24日。抱卵と育雛は地上で行います。タビン野生生物保存区の経験では、この期間だけ、道路で遭遇する回数が極端に少なくなります。

深い森に棲む鳥で、普通、1羽のオスに1から5羽のメスが1グループを作って行動しています。ある時はゆっくり、またある時はトコトコとせわしなく歩き、採餌と休息を繰り返しながら日中を地上で過ごします。

メスは全体茶褐色で、クチバシの基部から目の周囲が空色。

夜は決まって木の上で眠ります。樹冠部に潜り込んでしまうので、止まった場所が分かっている時でも、夜間、見つけるのは大変難しいです。

さて、再びセキショクヤケイについてです。もともとボルネオ島には分布しない鳥ですが、現在、タビン野生生物保存区に隣接するエステート(アブラヤシ農園)に限って、目撃することが出来ます。タビンリゾートが建てた彫刻入りのゲートは、リゾートの10キロメートル手前にあります。その手前のエステートでは、特に夕方、頻繁にセキショクヤケイと遭遇します。充分に成長したプランテーションは、下草がないので、その姿をはっきりと確認出来るのです。このエステートでは、1990年代初頭、西マレーシアから移入した野生種を放鳥しました。エステート内の地上の害虫駆除が目的です。害虫だけでなく、作業員にとって危険なスマトラコブラも、小さなものはこの鳥が食べてくれます。良く繁殖し、個体数は着実に増えているようです。日中は専ら地上を歩いていますが、良く飛び、夜間は必ず樹上で眠ります。家禽であるニワトリとも普通に交雑し、雑種もあるようですが、野生種は、ニワトリと違って頬に大きな白斑があります。

和名    コシアカキジ
学名    Lophura ignita
英名     Crested Fireback

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

カテゴリー

カテゴリー一覧

このカテゴリーの他の記事

ページTOPへ

Copyrights © 2010 Doubutu-no-kuni All Rights Reserved.
誌面、Webにおけるあらゆるコンテンツの無断複写・転載を禁じます。