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Vol.67 ツバメ

2015.12.26

 「なんでツバメの話か」と言われそうですが、ボルネオ島はツバメの大事な越冬地です。30,000羽ものツバメがひしめきあって夜を明かす様は、日本では想像も出来ない光景です。

 サバ州の内陸部にあるケニンガウの町では、渡りの一陣は7月の終わりに到着します。8月に入るとその数はグーンと増し、20,000羽くらいになります。12月がピークで約30,000羽。年が明けると少しずつ少なくなっていきます。サバ野生生物局による2002年2月の調査では、18,311羽がカウントされました。4月からは極端に少なくなりますが、まったくいなくなる時期はありません。5月、6月にいるツバメがどのような渡りをしてくるのか、私には知るよしもありません。

 日中、町へ行っても、ツバメは皆無です。50キロ以上も遠くで採餌をしているのです。キナバタンガン川では、川面に急降下して吸水する姿を見ることが出来ます。

ツバメ。12月に入ると3万羽を超える。

ツバメ。12月に入ると3万羽を超える。

 夕方、町中で待っていると、ダイサギが20羽、30羽と群れをなしてねぐらへ向かう姿が目撃されます。地上が暗くなり、車が点灯する時間になると、凄い数のミドリカラスモドキ(ムクドリの一種)が帰ってきて、町中の電線を埋め尽くします。まだ、空には夕映えが残る時間帯です。この鳥も夜は町中で過ごします。そして、空も暗くなる時間、突如、ツバメがやって来ます。その数の夥しいこと。圧倒されたのか、ミドリカラスモドキは逃げるように飛び立ち、別の場所に移ってしまいます。電線は何本も並行してあるので、そこを占拠したツバメは、とてつもなく長いソロバンみたいな光景を描き出します。

 詳しく観察すると、同じツバメでも胸が白い個体と灰色の個体があります。白いものは日本から来たもの。灰色は中国大陸からです。ここでは一緒に過ごしますが、北へ帰る時は別々に、それぞれの故郷を目指すのですから面白いですね。

 ボルネオ島へ来たすべてのツバメが、ここで冬を過ごすのではありません。あるものは僅かな滞在の後、さらに南を目指します。山階鳥類研究所標識班の調査では、日本で足輪をつけたツバメが、ジャワ島で捕獲されています。片道5,000キロメートルを1年間に1往復するのです。

ツバメ。ねぐらは決まって繁華街。

ツバメ。ねぐらは決まって繁華街。

 ツバメは全長14から17.5センチ、両翼を広げると32センチくらいになります。前頭部から顔の前面、喉にかけて煉瓦色、頭頂部から体の上面はツヤのある濃紺色です。胸から腹部は白色で、喉と胸の間を濃紺色の線が首輪のように境界を描いています。尾は長く切れ込みが入った二股形で、いわゆる「燕尾形」を成しています。

 ツバメは北アメリカ、ユーラシア大陸など北半球の広い地域で繁殖。渡り鳥として南アメリカ、アフリカ、東南アジア、インドネシア、オーストラリア北部で冬を過ごします。日本で繁殖するツバメは、台湾、フィリピン、ボルネオ、マレー半島、ジャワ島などで越冬。一部は本州に残留します。「越冬ツバメ」と呼ばれ、多くは民家内や軒下に集団でねぐらを作ります。ただ、それらの個体が日本で繁殖したものなのか、あるいはシベリアなどもっと北で夏に繁殖したものなのかは分かっていません。日本での越冬は、最近ではちょくちょく見られる現象です。私が小学生時代ですから、もう60年も前の話ですが、当時は、浜名湖近くの川合さんという農家が、唯一「ツバメのお宿」として知られていました。

 ある文献に、「ボルネオでの越冬は島の北部」とありました。実際は南のインドネシア側でも越冬します。情報が少ないだけなのです。私は東カリマンタンに住んでいましたから、州都サマリンダの町でいつもツバメを見ていました。ちょうどその頃、山階鳥類研究所が、ツバメの渡りを調査していることを知りました。そこで、情報を送ったところ、1994年の暮れに、調査員3名が来訪されました。

リュウキュウツバメ。大きな群れは作らない。

リュウキュウツバメ。大きな群れは作らない。

 日がとっぷり暮れた午後8時頃、現場へ行くと、それは想像以上の数でした。チクチク、チクチク、ザワザワ、ザワザワと、海鳴りのような音を立てていました。町灯りを頼りにミストネット(カスミ網)を立て、さっそく捕獲を始めました。簡単に捕まるのですが、その数の多いこと。調査員は、1羽ずつ体の部位を測定し記録、さらに足輪を着けて放逐するのです。これは大変な作業で長時間を要しました。当然のことながら野次馬が集まります。「食べるのか」と聞いて来たり、子供たちはパチンコ(ゴム管)を持参し、「僕も手伝う」なんて言ってくるのです。町の人にとって、野鳥は食べる対象でしかないのです。私は捕獲だけでなく、野次馬対策におわれたことを思い出します。その時は、群れの一部だけのカウントでしたが、10,000羽がいると推定されました。

 ツバメと良く似ていて、ボルネオや沖縄では季節により混在する鳥がいます。それがリュウキュウツバメです。本種は全長11から14センチ、前頭部から顔の前面、喉、さらに胸の上部まで煉瓦色、腹部は灰色がかった白色です。燕尾はツバメに比べると切れ込みが小さく短めです。リュウキュウツバメには、ツバメにある喉と胸部を隔てる濃紺色の線がなく、煉瓦色の胸の上部が、灰白色の腹部と接しています。この部分が両者の区別点です。

 リュウキュウツバメは、インド南部、インドシナ半島、インドネシア全域、オーストラリアから広く太平洋一帯に分布、ボルネオでも留鳥としてふつうに見られます。台湾、奄美大島以南の琉球列島にも留鳥として分布しますが、琉球列島では、冬季に個体数が減ることが分かっており、一部は南方への渡りをしているものと考えられます。

 

和名    ツバメ           リュウキュウツバメ
学名    Hirundo rustica      Hirundo tahitica
英名    Barn Swallow       Pacific Swallow

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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