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Vol.64 コビトリス

2015.9.25

 コビトリスは最も小さなリスの仲間で、ボルネオ島には3種類が分布します。そのうちクロミミコビトリスとボルネオコビトリスは低地から丘陵地帯に棲んでいます。フサミミコビトリスは高山性のリスです。3種類に共通した習性として、高木があるしっかりした森林にのみ棲息し、明るい林や灌木林、ましてアブラヤシなどのプランテーションには棲んでいません。昼行性で、休息時間帯を挟んで、早朝から夕方薄暗くなるまで活動します。食べ物は木や蔓植物に着いたコケ、地衣類、樹皮の柔らかい部分、小昆虫などです。太い木や巨木の幹や太い枝を好み、細い枝ではほとんど見られません。地上20メートルを超える樹冠部の幹から、地上すれすれの板根や根元まで、機敏に活動します。森林内に人間が作った山小屋風のリゾートにある渡り廊下や手すりなども移動時に利用します。リス全般に言えることですが、木の幹や樹上をせわしなく移動しながら食べ物を探します。しかし、ふと何かを警戒する時は静止したままです。また、果実やつぼみをむしり取ると、それを食べてしまうまで、小刻みに体を動かしていますが、同じ場所に留まっています。ところが、移動となると放たれた矢のごとく疾走します。登りも下りも同様のスピードです。

クロミミコビトリス。

クロミミコビトリス。

 クロミミコビトリスは頭胴長6.1から8.7センチ、尾長6.0から7.0センチ。体の上面は灰褐色、腹面はオレンジがかった褐色。鼻の上から頬を通り、肩に達する黄褐色の幅広い帯があり、名前の通り、耳の後面は黒色をしています。小さいながらも美しいリスです。薄暗い林内では見つけにくいのですが、いつもチチチッ、チチチッと、小鳥のような声で鳴き続けています。しかも、常に3頭から5頭がグループでおり、1頭見つければ、近くに必ず別の個体がいます。4つの足を思い切り広げ、腹を幹に密着させて動く様はリスそのものですが、木の裂け目に入り込んで休息している姿は、どことなくセミかヤモリを連想させるし、せわしない動きは幹や枝で餌をついばむシジュウカラのような小鳥そのものです。本種に限り、地上に降りて餌を探す姿も目撃することがあります。

 スマトラ、ジャワ、近隣の島々に分布、ボルネオ島ではサラワク、カリマンタンの全州で記録があり、低地から丘陵地帯の森林に棲息しています。北部のサバ州では、唯一、マリアウ盆地で目撃例があります。ただ、私は誤認ではないかと考えています。隣接した地域やサバに接するサラワク州北部、カリマンタン北東部にも記録がないからです。したがって、クロミミコビトリスはサバ州では見ることが出来ないリスだと考えて良いでしょう。

ボルネオコビトリス。

ボルネオコビトリス。

 ボルネオコビトリスは頭胴長6.2から8.2センチ、尾長4.2から6.2センチ、体重12から16グラム。ボルネオ島固有で、しかも最小のリスです。体は一様にオリーブがかった褐色、腹面はピンク色を帯びた黄褐色です。他の2種には耳に黒色部分や房状の毛があったりするのですが、本種にはそのようなものはありません。ボルネオでは広くカリマンタン全州、サラワク、ブルネイ、サバで記録があります。しかし、私の経験ですと、クロミミコビトリスが分布しているところでは、本種をあまり見ることがありません。

 私が初めてボルネオ島を訪ねたのは1985年で、10日間ほどをキナバル登山やサンダカン近郊の自然観察をして過ごしました。この時はボルネオコビトリスを知りませんでした。翌年からは東カリマンタンのバリクパパンに近いブキットスハルト研究林で生活し、動物調査を長らく続けたのですが、ここでも本種を見ることはありませんでした。

 1994年になって、カリマンタンの最北端、スブク川源流に入った時、初めてボルネオコビトリスに会いました。国境を挟んでサバ州のすぐ南側にあたる場所です。地上から10メートルほどの高さの幹で、動くものがあるのです。最初はトカゲかと思いました。しかし、初めて会うコビトリスの種類だと分かると、どうしても捕らえたくなったのです。どこに何がいるかという動物相の調査をしていましたから、写真だけで種類が分かるものは捕らえる必要もないのですが、ネズミ、コウモリ、小形リスなどは捕らえて細部まで測定しなければならないのです。この時は、とっさに小枝を拾って思い切り投げつけると首尾良く当たって落ちてきたのです。調査のためとはいえ、愛すべき野生動物が目の前で苦しみもがいているのを見るのは何ともいやな気分です。つくづくいやな仕事だと感じました。

フサミミコビトリス。

フサミミコビトリス。

 1998年からはサバ州で生活してきました。ボルネオコビトリスは、サバ州では観光客が多いダヌムバレー、ゴマントン洞窟の森林で見かけることがあります。他にもスカウ村ではムナンゴール川での朝のクルージングの際、頻繁に見ることが出来ます。ただ、小さいことと動きがあまりにも敏捷なので、動物観察になれている人からの説明がないと気づかなかったり、小鳥だと思ったり、「気のせいかな」で済ませてしまうことが多いようです。

 フサミミコビトリスは頭胴長8.3から9.3センチ、尾長6.5から7.3センチ、体重20グラム。ボルネオ島固有のリスです。一見ボルネオコビトリスと似ていますが、やや大きく、がっしりした体つきです。顕著な違いは、耳の先端に真っ白な毛の房があることです。房は2センチの長さに達します。体は濃い灰褐色、腹面も同色でやや明るい色合いです。尾はオレンジ色を帯びた濃い褐色で体毛の先端が灰色をしています。西海岸に沿って北部のサバ州からサラワク、ブルネイ、西カリマンタンに分布。フタバガキ林上部から山地林低部に棲息します。標高550から2980メートルの間の記録がありますが、よく見かけるのはキナバル山のメシラウやクロッカー山脈の標高1000から2000メートルの間です。

和名    クロミミコビトリス
学名    Nannosciurus melanotis
英名    Black-eared Pigmy Squirrel

和名    ボルネオコビトリス
学名    Exilisciurus exilis
英名    Plain Pigmy Squirrel

和名    フサミミコビトリス
学名    Exilisciurus whiteheadi
英名    Whitehead’s Pigmy Squirrel

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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