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Vol.90 ボルネオの森と動物たち その9 多様性に富むコウモリ類

2017.11.25

 ボルネオ産哺乳類240種類(最新の集計、第96回に詳細解説予定)のうち、コウモリ類は99種、全体の41パーセントを占めています。つまり、熱帯多雨林に最も良く適応した動物群はコウモリだということです。熱帯多雨林の立体構造は、コウモリにさまざまなねぐらを提供してくれるのです。

 高木に出来た洞にはハダカオヒキコウモリ、木の割れ目や倒木の洞にはサシオコウモリ。枯れたウツボカズラの中で見つかった種類もあります。

 ホシバネフルーツコウモリは、シダやランなどの着生植物の中で休息します。また、小枝や葉がうっそうと繁った中にはコイヌカオフルーツコウモリなどが潜んでいます。このコウモリは、マングローブから山地林に至るボルネオ島各地に最もふつうに見られる種類で、休息も廃屋やバナナの茂み、やぶ、洞の入口とさまざまです。

 専ら竹をねぐらとするコウモリがいます。しかし、ユビブトコウモリは枯れた竹だけを利用。タケコウモリやオオタケコウモリは生きた竹のみを利用しています。小さなコウモリで、竹の太さには関係なく、前者は幅が3mmの割れ目、後者は5mm(長さも15mmあれば十分)にしか進入しません。頭が極度に平たく特殊化しています。割れ目はすべて昆虫が開けたものです。自力では穴を開けることが出来ません。生竹で、割れて大きな穴があると、パピロスウーリーコウモリが利用します。

ボルネオダウンオオコウモリ。中形のフルーツバット。ねぐらは洞穴の入口に近い部分。仔を抱えたまま飛翔する。

 ジャワオオコウモリは人が近づけないマングローブやニッパ林、あるいは川沿いの高木に3、000頭もの巨大なコロニーを作ります。ただ、季節移動をするようで、常に同じ場所にコロニーを作るわけではありません。

 山小屋や廃屋にはダヤクカグラコウモリやコアラコウモリが小群で棲みついたりします。

 人家の天井にはブライズレムコウモリやアブラコウモリ、ハウスコウモリが棲みつくことがあります。ブライズレムコウモリは白い翼をもった中形の大変きれいなコウモリで、庁舎など木造の大形家屋の天井に大きなコロニーを作ります。同属のクロヒゲツームコウモリは特に明るい場所をねぐらに選ぶようで、 市街地のビルの使用されていない外階段の天井や側壁に、数100頭からなるコロニーを作ります。

 ねぐらの代表が鍾乳洞です。ボルネオでは、約30種のコウモリが洞穴をねぐらにしています。サバ州のゴマントン洞、サラワク州のムル洞穴群やニア洞、カリマンタン州のいたるところにある大鍾乳洞には通常1つの洞に5~15種ものコウモリが棲んでいます。

ジャイアントユビナガコウモリ。5種のユビナガコウモリ中最大。ねぐらは洞穴の天井。

 入口付近の明るい場所にはサシオコウモリがいます。止まる場所は斜めになったひさしや壁の下面で、足で吊り下がるだけでなく、翼の親指で壁につかまっています。この姿勢はサシオコウモリ科だけに見られるもので、ほかのコウモリは後足で吊り下がるだけです。

 少し中へ入るが、まだ十分に明るいところでは中形のフルーツバットであるダウンオオコウモリが大群をつくっています。ライトを当てると、目がオレンジ色に反射します。グアノ(堆積したフン)とは違うにおいがあり、コウモリバエがたくさん寄生しています。ここではルーカスコバナフルーツコウモリやコイヌカオフルーツコウモリも休息しています。

 ライトなしでは1歩も進めないような暗いところには、キクガシラコウモリ属やカグラコウモリ属、ホオヒゲコウモリ、ユビナガコウモリ、アブラコウモリ、オヒキコウモリなどがそれぞれコロニーを作っています。奥へ向かっての棲み分けや、同じ天井でも平らな部分と窪みなど、種や属による棲み分けがあります。ほとんどのコウモリは子どもを腹に抱えて採餌に出かけますが、キクガシラコウモリには「保育園」があり、母親は子どもを残して採餌に出ます。

 熱帯林はねぐらと同様、さまざまな採餌空間を生み出しています。しかし、あらゆる空間をくまなく利用する種類はいません。それぞれのグループごとに利用する空間が決まっており、それはコウモリの翼の形と飛び方の違いで知ることができます。鳥類でも同様なことが言えるのでしょうが、飛行機の翼の形が、目的によって違うのと似ています。

夕方、採餌に出かけるコウモリの群れ。洞穴に棲む何種類もが混じっている。

 ユビナガコウモリ属やオヒキコウモリ属のコウモリは、森林や広い川の上空を飛び、森林の中では採餌しません。ツバメのような細くて長い翼をもち直線的に飛ぶのが特徴です。サシオコウモリの仲間も同じような広く開けた場所で採餌します。オヒキコウモリは川面でも採餌するようで、水面すれすれに張ったカスミ網にかかることが良くあります。オオアシホオヒゲコウモリの仲間は水面をヒラヒラ飛びながら、がんじょうな爪で小魚を捕らえることがあります。

 キクガシラコウモリ属やカグラコウモリ属は森林内の中層から下層部分をおもな採餌空間としています。森林内に建てられたロッジの周囲を何度も旋回したり、外灯に集まる小昆虫を食べに来るのも、たいていこの仲間です。翼は比較的短く幅があり、ヒラヒラ、ヒラヒラと飛ぶことが出来ます。ウーリーコウモリは、さらに木が密生した林床近くをゆっくりと飛び、森林から出ることはほとんどありません。

 以上のように、熱帯多雨林に一番適応し繁栄したグループがコウモリです。そのことは、現在のような熱帯多雨林の衰退で、コウモリは計り知れないダメージを被っていると言えるでしょう。

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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