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Vol.54 マメジカ

2014.11.25

 ボルネオ島のいなかを旅すると、ニワトリやイヌだけではなく、たまにマメジカを飼っている家があります。身動きもままならない小さなカゴに入れ、キャッサバやイモの葉を餌として与えています。「かわいいねえ」と言ったら、「そのうち食べるんだ」と、衝撃でしたが、ほぼ予想した言葉が返ってきました。シキチョウやサトウチョウなど小鳥を除き、村人が飼っている野生動物は、ほとんどすべて食べるためです。

 ボルネオ島奥地の貴重な動物タンパク源はイノシシです。大きな動物ですし数も多く、肉も脂も使えるからです。奥地のダヤク族は、イノシシだけでなくサルでもヤマアラシでも、捕らえたものは何でも食べます。一方、大きな河川の中流域から下流域にはイスラム教徒が多く、イノシシは捕獲しません。宗教上、不浄なものとして食べることを禁じられているのです。代わってイスラム教徒はスイロクやキョン、マメジカなどを捕えて食べています。なかでもマメジカは比較的捕えやすい動物なのです。

 マメジカの捕獲には、もっぱらカゴワナを使います。カゴワナと言っても、餌を使って、動物が入ると扉が閉まる仕組みのものではありません。ワナは竹や籐で編んだかまぼこ型のザルです。これを小動物の通り道に立てかけておき、動物が通過し、ザルの真下に設置した踏み板に乗ると、カゴが被さる仕組みです。マメジカだけでなく、コシアカキジのようなキジの仲間も生け捕りにすることが出来ます。

マメジカにはオス、メスとも角がない。

マメジカにはオス、メスとも角がない。

 さて、「マメジカ」と聞くと、皆さんは小型のシカを連想することでしょう。しかし、マメジカはシカそのものではありません。学問上はシカと同じ偶蹄目に分類されますが、イノシシ科、シカ科、ウシ科、キリン科などと並んで、「マメジカ科」という独立した科を構成しています。

 マメジカのことを、英語では一般にMouse-deer(ネズミジカ)を用いますが、最近はChevrotainと呼ぶことが多いようです。「小さなヤギ」を意味するフランス語起源の英語です。ちなみに属名のTragulusは、「ヤギに似たもの」という意味のギリシャ語です。

 全体的な特徴は、最大でもウサギくらいの小動物で、ずんぐりした体型、小さな顔に大きな目、短くてきゃしゃな四肢が特徴です。角はありませんが、オスは上顎の犬歯(牙)が長く発達します。

 3属10種に分類されますが、赤道直下のアフリカに分布する1種類を除き、すべて南アジアに分布しています。

 ボルネオには、カンチルマメジカとオオマメジカの2種類が棲息します。

 カンチルマメジカは、これまでジャワマメジカとされてきました。これが最近の分類で2種に分けられ、ジャワ島に分布するものだけをジャワマメジカとし、他所の個体群は別の独立種としてまとめられました。「カンチルマメジカ」という和名は必要上、私が付けた仮のものです。種小名kanchilと、インドネシア名kancil(カンチル)に基づいています。

カンチルマメジカ。側面からは、白線が顎から胸にかけて1本に見える。

カンチルマメジカ。側面からは、白線が顎から胸にかけて1本に見える。

 カンチルマメジカはベトナム、カンボジア、ミャンマー、タイなどインドシナからマレーシア半島、スマトラ、ボルネオ、それらの間にある多くの島々に分布しています。頭胴長37から56センチ、尾長6から9センチ、肩高25から30センチ、体重1.5から2.5キログラムです。全体に赤みを帯びた褐色で腹面は白色です。首の背面は黒褐色で、のどから胸には3本の白い縦線と暗褐色の部分があります。

 オオマメジカの分布はカンチルマメジカと大きく重なっていますが、インドシナの国々には棲息していません。頭胴長42.5から68センチ、尾長8.5センチ、肩高30から35センチ、体重3.5から4.5キログラムです。灰褐色から赤褐色で、毛の先端が黒色です。そのため全体に暗褐色に見えます。腹面は白色、胸にはカンチルマメジカと同様、白線と暗褐色の部分があります。

 野外で遭遇した場合、初めての人には両種の区別が難しいでしょう。機会があれば、コタキナバル近郊にあるロカウイ動物園などで観察すると良いでしょう。

 カンチルマメジカは小さくてきゃしゃ、明るい体色で毛がスムーズに見えます。のどから胸に伸びる純白の線は、側面から見ると縦1本に見えます。一方、オオマメジカは多少大きく、黒味が強く、毛が荒く感じられます。のどから胸にかけての白線は、側面から見ると1本ではなく、カタカナの「ミ」のように、2本か3本になります。

オオマメジカ。側面からは、白線が2本か数本に見える。

オオマメジカ。側面からは、白線が2本か数本に見える。

 野外では、2種類とも良く似た生活をしています。活動は夜のほうが活発ですが、昼も夜も活動と休息を繰り返しています。森から開けた所へ出ることはありません。下草が生い茂った場所やブッシュには、彼等が良く通るトンネル状になったケモノ道があります。普段は単独で行動し、繁殖期だけ2頭あるいは数頭が一緒にいるところが目撃されます。若い草の芽や葉、キノコ、落下した花や果実などを食べています。

 村人が良く捕まえていると書きましたが、マメジカを食べるのは人間だけではありません。ヤマネコ類、ジャコウネコ類の幾つかの種類、ニシキヘビ、川辺では夜間、イリエワニにも襲われています。しかし、彼らには捕食者に対抗する特別な武器はありません。敵に襲われると、その小さな体を生かして、薮に潜り込んだり、倒木や岩の割れ目に跳び込んで難を逃れます。

 

和名   カンチルマメジカ                    オオマメジカ
学名   Tragulus kanchil                     Tragulus napu
英名   Lesser Indo-Malayan Chevrotain          Greater Indo-Malayan Chevrotain

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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