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Vol.73 ミカドバト

2016.6.25

 ハト類は、分類上ハト科に属する鳥類の総称です。鳥類のなかでも種類が多いことで知られ、極地地方や高山帯を除いて、300種近くが世界各地に分布しています。共通する形態的な特徴は、体がやや太り気味で、体に比べて頭が小さく、首が細いということです。ボルネオ島は生物地理学上「東洋区」(アジアの熱帯)に含まれますが、キツツキ類と共にハト類が多いこともこの区域の特徴の1つです。ボルネオには20種のハトが自然分布しています。これに加えて、日本と同様、野生化したカワラバト(ドバト)も棲息しています。

 英語圏ではハト類をピジョンPigeonとダブDoveに大別しています。それに従うと、ボルネオではピジョンが12種、ダブが8種ということになります。

 ピジョンとダブに学問上の違いはありません。カワラバトはRock Dove, Rock Pigeon, Feral(野化した)Pigeonなど、いろいろな呼ばれ方をされています。しかし、一般的な特徴としてピジョンはスマートな体型で、ボルネオではミカドバト、ソデグロバト、シノバトなど全長が40センチを超える大型の種が多いことがあげられます。もっとも、アオバト類は全長22から36センチと、中型のハトです。オオアオバトは全長36センチで、アオバトの中では最大です。ピジョンは主に樹上で採餌をし、野生のイチジクなど果実を食べています。

ミカドバト。もっとも普通に見られる。

ミカドバト。もっとも普通に見られる。

 一方、ダブはずんぐりした体型で、ボルネオではキンバト、カノコバト、ボタンバトなど全長は30センチ以下の種がほとんどです。チョウショウバトに至っては長い尾を含めても全長21センチで、ボルネオでは最小のハトです。ダブは地上、樹上の両方で採餌し、主に種子、穀類を食べています。しかし、ボタンバト、カルカヤバトは英語で「Fruit Dove」と呼ばれ、樹上で果実を食べます。器用に種子を吐き捨てるので、樹木の種子散布に大いに貢献しているわけです。

 日本ではハトを食べる習慣がありません。ところが、インドネシアではちょっとした食堂のメニューにハト料理があり、専門のレストランもあるようです。私がインドネシアで暮らしていたのは1994年末までです。記憶が定かでないのですが、ハト料理は丸ごと焼いて、甘いタレに浸したようなものでした。タレのうま味は骨にまでしみ込んでいて、骨ごとバリバリと食べていました。決してまずいものではありませんが、私は連れが注文したものを一緒に味わう程度で、自分から頼んだことは一度もありませんでした。パサール(常設市場)の鳥売場には、生きたままのハトが売られていました。ほとんどがチョウショウバトです。養殖場があるという話は聞いていません。おそらく野生のものを捕まえて売っているのでしょう。町の公園などで地上を歩いているハトの多くが本種です。同じような場所で採餌するカノコバトに比べると、警戒心が薄く、あるいは捕らえやすいのかもしれません。チョウショウバトは「クル、クル、クル、クル」というソフトな声で鳴きます。ジャワ島ではペットとして飼う人が多く、鳴き声を競い合う大会もあるそうです。

ヤマミカドバト。山地性の大型のハト。

ヤマミカドバト。山地性の大型のハト。

 ミカドバトとヤマミカドバトは全長45センチ、ボルネオでは最大のピジョンです。ミカドバトは低地から丘陵地帯にかけての森林で最も普通に見られるハトです。特にキナバタンガン川下流域は川沿いにイチジクが多いので、実がある時には、数羽から10羽前後からなるミカドバトの小群が、夢中になって採餌する様子が観察できます。喉に詰まるのではないかと、心配になるような大きな果実まで丸呑みにしています。世界的にはインド、中国南部からフィリピン、マレー半島、スマトラからニューギニアにかけて広く分布します。頭から首、腹面は灰白色、翼と尾が濃い緑色の美しいハトです。特に朝陽、夕陽を浴びた時は胸から腹部が灰褐色に染まり、美しさが際立ちます。 ヤマミカドバトは、名前の通りキナバル山やクロッカー山脈など標高1500メート付近の山地で営巣するハトです。写真はボルネオ第2の高峰、トゥルスマディ山で撮影したものです。10日間、キャンプしながらの動物調査の際、偶然に巣を見つけました。

 ヤマミカドバトは、そのような山地帯の森林で生活しています。ただ、季節によっては低地林の豊富な果実を求めて移動します。特に10月から2月の間には、マングローブでちょくちょく目撃されています。どうも海水を飲みに来ているようです。同じようなことは日本のアオバトでも観察されています。奥多摩や丹沢に棲むアオバトが、大磯海岸の岩礁で海水を飲むことは良く知られた事実です。ヤマミカドバトは一見ミカドバトに似ていますが、首から腹部が僅かに赤味を帯び、翼も緑色ではなく、アズキ色を帯びています。

オオアオバト。イチジクの実をむさぼっていた。

オオアオバト。イチジクの実をむさぼっていた。

 カワラバトはドバトとも呼ばれ、日本では公園や神社などで大きな群れを作っているハトです。もともとの野生種は中近東から西ヨーロッパ、北アフリカにかけての乾燥地帯に分布し、崖などに棲んでいます。私も野生種と思われるものをスペインで観察しています。日本に分布しているものは、すべて家禽の野生化したものです。人に馴れやすいため家禽化され食用や伝令用に利用されてきました。一説では、飛鳥時代、すでに日本に持ち込まれていたそうです。日本のカワラバトは、以前は狩猟対象鳥でした。しかし、誤って伝書鳩を撃ってしまう危険性があることなどから、現在は狩猟の対象から外されています。ボルネオでも大きな町や村では普通に見られます。スズメと同じように、ヒトと共存する鳥なのです。島の北西に位置するコタキナバルでは、北からやってきて冬の間だけ滞在するハヤブサの重要な餌動物となっています。

 

和名 ミカドバト           ヤマミカドバト           オオアオバト
学名 Ducula aenea        Ducula badia            Treron capellei
英名 Green Imperial Pigeon   Mountain Imperial Pigeon    Large Green Pigeon

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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