日本全国の動物園と水族館をつなぐ情報誌、「どうぶつのくに」「どうぶつえんとすいぞくかん」公式Webサイト

どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.76 ミツヅノコノハガエル

2016.9.25

 熱帯雨林に滞在し自然観察を楽しむツアーでは、必ず「○○を見たい、会いたい」と言ったことが話題にあがります。大きなものではオランウータン、ゾウ、ヤマネコ、サイチョウなどが定番。少し小さなものとなるとモリドラゴン、テイオウゼミ、バイオリンムシと言ったところでしょうか。ミツヅノコノハガエルもその代表格です。何と言っても「ツノ」があって、独特の形をしているのです。このカエルは、ボルネオの森では決して珍しい動物ではありません。その証拠には、夕方、スコールが来ると、森の中のあちらこちらから鳴き声が響いてきます。鳴き声は、甲高い「クワーッ」というものです。連続して鳴くのではなく、この特徴的な一声を、8から15秒に1度発するのです。しかし、会いたくても簡単に見つかる相手ではありません。もっぱらの夜行性なのです。日中、幼体(未成熟のカエル)は堆積した落ち葉の中、成体は倒木や大きな石の下に潜んでいます。現地ガイドに案内されて私たちが歩くのは整備された小径か木道、そんな所にはいないし、人の気配でピョーンとジャンプするようなカエルではないのです。道をはずしたり、あまり利用されていない山道の落ち葉が積もった場所、そんな所に入ると突然ゴソッと動くのがコノハガエルの仲間です。あるいは、私がしばしば出会ったのは、ロッジの庭でした。宿泊棟には外灯があります。夜になると、灯りに向かってたくさんの甲虫、ガ、セミ、カマキリが集まります。壁だけでなく、植え込みに止まったり、地面に落ちてくるものもたくさんいます。そんな獲物を目当てにカエルが出てきて、植え込みの陰で待ち伏せをしているのです。大きさといい、風貌からして一番目につくのがミツヅノコノハガエルです。

頭にはツノ状の突起が3つある。

頭にはツノ状の突起が3つある。

 コノハガエルの仲間(コノハガエル属)は南アジアに分布し、ボルネオからも4種が知られています。すべての種は、標高0メートルの低地に広がる熱帯雨林から標高1600メートルにある急峻な山地林低部の原生林、あるいはそれに近いうっそうとした二次林の中にだけ棲んでいます。共通する形態上の特徴として、大きく幅広の頭を持ち、両まぶたの上側に「ツノ」のような皮膚の突起があります。ツノは全種が持っており、それぞれ形も違うのですが、必ずしも種の違いと一致するわけではありません。大きな頭と、特に幅のある口は、この仲間が比較的大きな餌動物を捕食していることの表れでしょう。実際、殻の直径が5センチもあるカタツムリを食べているし、ゴキブリやバッタなど多くの昆虫類、ミミズ、ムカデやサソリさえも普通に捕食することが知られています。同じくコノハガエルに共通した特徴は、体の割に脚が細長く、しかも短いことです。そのため、この仲間はごく短い距離をゴソッと跳ねるだけの動きしかせず、敵に襲われた際、大きくジャンプして難を逃れることができません。しかし、心配にはおよびません。彼らの生きる戦略は「カムフラージュ」することに主眼が置かれているのです。名前も、背面からですと「木の葉」そっくりに見えることに由来します。全種とも体は褐色または赤褐色。彼らが一生の多くの時間を費やす落葉が堆積した場所、まさに、その場所の色なのです。多くのコノハガエルの背面には、何本かの細い皮膚の稜が走っています。これは枯葉にある葉脈に似せているのだと考えられています。

腹面にはぼやけた暗褐色の斑紋が分布。

腹面にはぼやけた暗褐色の斑紋が分布。

 ミツヅノコノハガエルですが、本種は同属内では大型の種で、体長7から14センチ、オスよりもメスの方が大型になります。マレー半島南部、スマトラ、ボルネオに分布。ボルネオではほぼ全域の森林に棲息しています。体色には変異があり褐色や赤褐色、黄褐色、灰色と個体により変異があります。ずんぐりした体型で、頭の幅は頭胴長の半分もあります。ツノ状の突起は幅広く、先端が尖っています。本種の場合、ツノが両まぶたの上だけでなく、吻端にも1つあるので合計で3本、「ミツヅノ」と呼ばれているのです。背面には2対の長く稜になったひだがあります。また、1ないし2つの暗褐色の斑点が背中にあります。多くの個体で顎から喉にかけて中央に暗色の線が入っており、さらに、胸と腹には大きな暗褐色の斑紋が密に分布しています。

 繁殖形態は卵生で、流れのない清流の石や流木の下に産卵します。かえった幼生(おたまじゃくし)は川底の小石などの間や、岸辺の水中に伸びる木や草の根の中に潜んでいます。幼生は細長い体型をしており、水面に浮いた有機質を食べるため、漏斗のような形状の口器と長い舌を持っています。かえった幼生(おたまじゃくし)は、漏斗のような形をした口と長い舌で、水面に浮いた有機物を食べて成長します。

                                
背面には狭くて長いひだが縦に走っている。

背面には狭くて長いひだが縦に走っている。

 さて、ミツヅノコノハガエルのツノにはどんな意味があるのでしょう。これは、反り返った葉の先端を模しているのだと考えられています。熱帯の樹木の葉は例外なく先端が尖っています。日本でしばしば見られるような先端が丸いものは皆無です。熱帯雨林ではほとんど毎日雨が降るのですが、葉の表面にカビや細菌が繁殖するのを防ぐために、すべての植物は、葉の先端を水切りのよい尖った形にしたのだというのが植物学者の説です。

 別の種、Rough Horned Frog(和名がない)では、まぶたの上にあるものは、ツノとは言えない鈍い三角形の突起に過ぎません。本種はミツヅノコノハガエルよりさらにくすんだ色で、なかば泥が附着したような体色です。頭や胴、前足の外側にも平たい皮膚の突起がたくさんあり、全体はなかば朽ちた枯葉にそっくりです。これでは、偶然でも良いのでゴソッと動いてくれなければ見つけることも不可能ですね。

 

和名   ミツヅノコノハガエル
学名   Megophrys nasuta
英名   Bornean Horned Frog

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

カテゴリー

カテゴリー一覧

このカテゴリーの他の記事

ページTOPへ

Copyrights © 2010 Doubutu-no-kuni All Rights Reserved.
誌面、Webにおけるあらゆるコンテンツの無断複写・転載を禁じます。