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Vol.96 ボルネオ島哺乳類のまとめ

2018.5.25

 8年にわたる連載も最終回となりました。今回は、私の専門分野である哺乳動物に限って、必要なまとめをします。連載がスタートした時点では、ボルネオの哺乳動物は229種、うち家畜の野生化したものが6種でした。連載の第83回に載せた表では232種としています。その後、最終回にあたって、文献(2017年末まで)を可能な限りチェックしてみました。

 現在、ボルネオで記録されている哺乳動物は251種。これには家畜の野生化したもの6種、移入された野生動物1種、さらにナトゥーナ諸島に分布する4種が含まれています。

 移入種はジャワから持ち込まれたルサジカで、以前の集計では野生動物としての扱いのみで、移入種としての区別をしていませんでした。

 ナトゥーナ諸島はマレー半島西海岸とボルネオ島・ブルネイとのほぼ中間にある小さな島々で、最近ではボルネオ地域内として扱うことが多いようです。計算ですと、全部で252種ですが、野生化した家畜ブタと、ナトゥーナ諸島に分布するタイリクイノシシが学問上同一種ですので、計251種となるのです。

テングザル。母仔。前面に赤ん坊がいる。

 数値から分かるように、連載スタート時以降、22種がボルネオの哺乳類に加わりました。ただ、4種はナトゥーナ諸島をボルネオに含めることで加わったのですから、新種として加わったのは18種ということです。しかし、まったくの新種発見というものはありません。分類学にDNA解析を導入したことで、ボルネオ産哺乳類に関して多くの改定があったということです。これまで南アジアに広く分布し同一種とされていた動物の中に、ボルネオに分布する個体群が別種と認められたものがあるということです。さらにその個体群の分布域がボルネオに限られるということになると、「ボルネオ固有種」となります。

 固有種は65種ですが、ボルネオ島のみを考えると64種です。1種はナツナリーフモンキーでナトゥーナ諸島のみの固有種だからです。連載スタート時点で43種でしたから、21種は、新種記載と同時にボルネオのみに分布する種ということになったからです。

 例えば、オランウータンはボルネオオランウータンとスマトラオランウータンの2種に分けられました。リーフモンキー類は5種から8種(1種はナトゥーナ諸島のみ)に分けられ、そのうち7種がボルネオ固有種。テナガザルも2種から4種となり、3種がボルネオ固有種となりました。ツパイ類は10種と変わりませんが、コモンツパイのボルネオ個体群が亜種から種レベルに格上げとなり、ボルネオ固有種は6種から7種となりました。

アジアゾウ。ボルネオの個体群は身体が小さい。

 メガネザル類は、ボルネオではニシメガネザル1種のみで、ボルネオとスマトラに分布することは以前と変わりありません。しかし、南アジア全体で3種とされていたメガネザル類が、現在は11種に分類されます。特にスラウェシ島の1種が9種に分けられました。センザンコウ、ブタオザル、ヒヨケザルなども分布域の違いによって幾つかの種に分けられました。ボルネオのアジアゾウは、これまでスマトラと同じ亜種とされてきましたが、現在はボルネオ固有亜種となっています。

 この他、大きく変わったこととして、マングース類が、それまでのジャコウネコ科からマングース科に独立。スンダスカンクアナグマはイタチ科からスカンク科に移されました。これらは突然の変更ではなく、以前から分類学上論議されていた議題でもありました。連載第52回のカワネズミは、私が半世紀ぶりに捕獲した個体が元となり、ボルネオ島固有種としての地位を得ました。

 21世紀に入り、「ボルネオ島で未知の肉食動物発見」という大ニュースが出たことがあります。その頃、北カリマンタンで大規模な農園開発計画がありました。それを阻止しようと世界的な自然保護団体が使った手段が、タイミング良く現地近くで撮られた秘蔵写真の公表だったわけです。もちろん、真実ならば学問上でも大きな出来事となったはずです。ところが、顔が写っておらず、結論が出ないまま、話題にも上らなくなってしまいました。しかし、研究者は「そうでしたか」では済まされません。全身がカラーで鮮明に写っているのですから、「新種なのか、あるいは既知の動物なのか」を明らかにしたくなるものです。これには哺乳類の専門家で私の知人でもあるカリマンタン在住のオランダ人とスコットランド博物館研究員が、写真の分析と論文の作成に携わりました。私も資料や情報の提供、私見を述べたりもしました。正体はトマスクロムササビでした。ムササビの一般的な習性から見てちょっと考えにくいのですが、写真の動物は地上を跳ねていました。そのため、可能性がある種を一つ一つ丹念に、慎重に検討しました。そして、ようやく、新種ではなく既存のムササビだという結論に至ったのです。

ボルネオヒヨケザル。オス、メス、仔の3頭が入った写真は珍しい。

 哺乳類のように比較的よく研究されている分野では、まったく未知の種が見つかるということはめったにありません。それでも、身体が小さく、夜行性で捕獲が難しいコウモリ類やネズミ類に関しては、ボルネオ島で新種の見つかる可能性は皆無とはいいきれません。

 学問上の定義や理念は決して不変なものではありません。現在、生物の分類はDNA分析が主流です。それでも、「どこまでの差違内なら同種」だとする基準は、研究者が決めていることです。ですから、この先も新種になったり、同種に戻ることもあるでしょう。生物学のもっとも基本である分類学でさえ、他の分野との整合性を模索しながら、一層の真理に向かうことを理想としつつ、時代とともに変化するものなのです。

 おわりに、動物たちは新種であろうがなかろうが、自然の中でけなげに生きています。彼らの生活をそっと垣間見せてもらい、しばし、自然との対話を楽しみとさせてもらおうではありませんか。

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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