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Vol.66 下流域のワシ類

2015.11.25

 ボルネオ島の表玄関、コタキナバルの中央市場あたりを散策していると、海上を大きなワシが旋回する姿を目撃することがあります。ミサゴです。翼が細長く、両翼を広げると160センチにもなる容姿端麗なワシです。サンダカンの港や、町から離れた小漁村で目撃することもあります。もっとも、ミサゴはボルネオ島では留鳥としてではなく、北から飛来し、冬越しのために一時期を滞在しているのです。

 ミサゴと同様、魚類を主食とするワシで、ボルネオ島で周年観察できる種類には、シロガシラトビ、シロハラウミワシ、コウオクイワシなどがあります。習性からいって、これらのワシの観察は海岸や川に限られます。そんな中で、うってつけの場所がキナバタンガン川下流域生物サンクチャリーです。スカウ、ビリッツ両村を拠点として、多くの観光客が、クルージングをしながら野生動物の観察を楽しむ場所です。朝、昼、夕方、さらに夜間にクルージングを繰り返します。魚食のワシ類の観察は、陽射しが強い日中と夕方がベストです。そんなにたくさんいるわけではないのですが、幾度も通っていると、いつもいる場所が分かってきます。おそらく、縄張りを持って暮らしているのでしょう。ほとんど1羽ずつですが、シロガシラトビに限って、数羽が一緒にいることもよくあります。

シロガシラトビ。栗色の翼が映える。

シロガシラトビ。栗色の翼が映える。

 抜けるような青空、弧を描いて大きく滑空するワシの雄姿は、誰が見ても気持ちが良いもので、思わずカメラを向けたくなるものです。

 頻繁に目撃されるのがシロガシラトビです。体の白い部分と栗色の部分のコントラストが鮮明で、大変きれいなトビです。一度覚えたら、決して忘れる事はない鳥でしょう。

 和名のとおり頭が白色。首、胸と上腹部も白色です。背面と下腹部は栗色。また、飛翔時に分かることですが、翼の先端は黒色です。足は黄色。全長45から51センチ、両翼を広げると110センチ前後の大きさになります。日本のトビはオスで全長58.5センチ、メスで68.5センチ、両翼を広げると150センチの大きさがあります。ですから、シロガシラトビは、トビと比べると、かなり小さく感じます。

 シロガシラトビは、ボルネオではもっとも広く分布し、よく見るワシタカです。海岸や離島だけでなく、大きな川、田んぼ周辺、奥地の渓流にも分布しています。ただし、川沿いに限られ、深い森林に入ることはありません。このことは、主食が魚であることと関係しているのでしょう。主な食べ物は生きた魚です。水面に平行的に飛び、鋭い足の爪で魚を捕らえます。その他、岸辺ではカニや死んだ魚も食べ、さらにカエル、トカゲ、ヘビ、大きな昆虫を捕食することも知られています。

シロハラウミワシ。木の頂にいることが多い。

シロハラウミワシ。木の頂にいることが多い。

 海外ではインドから中国南部、アジアの熱帯からオーストラリア、ソロモン諸島まで広く分布しています。本来、日本には分布していない鳥ですが、2014年2月、石垣島で写真撮影されており、その後もしばしば石垣島、西表島で目撃されています。

 シロハラウミワシは、海岸や離島、マングローブ、大きな川の下流域に棲息する大形のワシです。全長75から85センチ、両翼を広げると180センチにもなります。頭と首、体の下面は白色。背面と翼は黒みの強い灰色をしています。尾羽は先端に向かって開いたくさび形で白色、基部が黒灰色になっています。正面から見ると翼が水平より上に反るようになっていて、空高く雄大に旋回しますが、ミサゴのように常に飛んでいるというより、普段は高い梢に止まっている時間のほうが長く感じます。しかし、ボートで近づこうとすると、すぐに飛び立ってしまい、近くからはじっくり観察できません。

 海面近くを泳ぐウミヘビを、爪で引っかけて捕らえることが知られていますが、魚やヘビ、小鳥、死んだ魚などが主な食べ物です。また、他のワシから獲物を横取りすることもあるようです。分布はインドから中国南部、インドシナ半島からインドネシア、ニューギニア、オーストラリアと、シロガシラトビと重なっています。

コウオクイワシ。支流など狭い川を好む。

コウオクイワシ。支流など狭い川を好む。

 コウオクイワシは日本のトビより一回り小さく全長51から64センチ、両翼を広げると130センチほどの鳥です。頭から胸の上部は灰色、胸は褐色がかった灰色、腹部から腿は白色。この白色の部分は、飛翔中、下から見ると尾に向かってV字型を描いています。翼は灰褐色です。尾も褐色ですが、先端が暗色の帯模様で縁取られています。

 食べ物はほとんどが魚です。ボルネオ島では標高1000メートルくらいまでの多くの川、特に大きな川に通じる狭い支流を好んで暮らしているように感じます。日中は、水際に立つ木の高さ5から10メートルにある横枝に止まっています。「これは良いシャッターチャンスだ」と思ってボートを近づけるのですが、たいていは、まだ十分な距離があるうちに逃げられてしまいます。しかし、遠くに飛び去ってしまうのではなく、多くの場合、川に沿ってほぼ水平方向に飛び、100メートルもいかないうちに、再び枝に止まります。逆に、大空高く旋回する光景を私は見たことがありません。ボルネオ島以外では、ヒマラヤから東南アジア、マレー半島、スマトラ島、スラウェシ島などに分布しています。

 コウオクイワシはウオクイワシと大変良く似ています。しかし、後者は全長61から75センチと、かなり大きく、一番の特徴は尾が上面下面とも白色で、先端部が黒色の帯模様で縁取られています。キナバタンガン下流域にはたくさんの支流がありますが、その辺りで目撃されるものは、ほとんどがコウオクイワシです。

 

和名   シロガシラトビ   シロハラウミワシ       コウオクイワシ
学名   Haliastur Indus   Haliaeetus leucogaste   Ichthyophaga humilis
英名   Brahminy Kite   White-bellied Sea Eagle   Lesser Fish Eagle

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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